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癒やしのファシリティドッグと、わけあり警察官が難事件を解決!|大倉崇裕『犬は知っている』

大倉崇裕さん『犬は知っている』

ファシリティドッグが、その愛らしさで、囚人患者の心を開き、事件の重大な秘密を聞き出す。大倉崇裕が、やってくれた。これは、犬好き必読のミステリーなのだ!

多彩なミステリーを発表している大倉崇裕に、「警視庁いきもの係」シリーズがある。容疑者のペットを保護する警視庁総務部総務課“動物管理係”の刑事が、生き物の絡んだ事件を解決する警察小説である。テレビドラマにもなったので、ご存じの人も多いだろう。さまざまな生き物に関する知識が生かされたストーリーに、読めば読むほど感心したものである。

そんな作者が、人間の一番古い友人ともいわれる“犬”を題材にした連作ミステリーを上梓した。しかも、ゴールデン・レトリバーのピーボ(7歳オス)は、警察病院に常駐しているファシリティドッグである。ちなみにファシリティドッグとは、病院で患者に寄り添い、恐怖や苦痛といった精神面の苦痛を和らげる犬のこと。セラピードッグとは、少し役割が違う。入院している子供たちに人気のピーボだが、実は裏の仕事があった。囚人患者の心を開かせ、秘密を聞き出すのである。ピーボのハンドラーである笠門達也巡査部長は、その秘密を端緒にして、事件の再捜査を始めるのであった。

本書は全5話で構成されている。冒頭の「犬に囁く」は、9人を殺害した死刑囚が、7人目の殺人は自分ではないとピーボにいう。笠門が突き止めた、事件の真相は驚くべきもの。「読者の意識を犯人から逸らす方法」という講義があったら、テキストに使用したくなる優れた作品だ。

続く「犬は知っている」は、囚人患者の言葉により、自殺で決着した件が殺人だった可能性が浮上。笠門が暴いた犯人の、あまりにも自己中心的な殺人の動機が恐ろしい。そして、笠門の過去のトラウマが明らかになる「犬が寄り添う」、「福家警部補」シリーズでお馴染みの倒叙形式を使った「犬が見つける」を経て、最終話「犬はともだち」に突入。笠門とピーボが、上司の須脇警視正にかけられた殺人の容疑を晴らす。各話とも、ミステリーの読ませどころがあり、高水準の連作集になっているのだ。また、幾つかのシリーズと作品世界が繋がっているのも、作者のファンにとって嬉しいポイントである。

さらに、ピーボの魅力も見逃せない。子供たちだけでなく、事件の捜査で出会う人々も笑顔にする。要所で笠門に、真相に至る気づきを与える。そもそも過去の件で崩れかかった笠門を立ち直らせたのもピーボだ。人間と犬の間にある、強い絆が心地よい。犬好きならば必読といいたくなる“犬ミステリー”の収穫なのだ。

犬は知っている
著者:大倉崇裕
発売日:2024年01月
発行所:双葉社
価格:1,870円(税込)
ISBNコード:9784575247114

双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」にて『犬は知っている』の試し読みが公開されています。

『犬は知っている』の試し読みはこちら

『小説推理』(双葉社)2024年3月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載