新しい年が始まりました。ほんのひきだしでは今年も皆様の読書ライフの充実をお手伝いすべく、人生を豊かにしてくれる、さまざまな魅力あふれる本をご紹介していきます。
まずは、1月1日より12日間にわたり、各出版社の文芸編集者の皆さんが【いま注目の作家】を紹介する「編集者が注目!2023年はこの作家を読んでほしい!」をお届けします。
ぜひ、今年の“初読み”にふさわしい一冊を見つけて、書店に足を運んでみてください。
文藝春秋編集者 柘植学さんの注目作家は「一穂ミチ」
一穂ミチ(いちほ みち)
2007年『雪よ林檎の香のごとく』(新書館)でデビュー。ボーイズラブ小説を中心に作品を発表して読者の絶大な支持を集める。21年に刊行した、初の単行本一般文芸作品『スモールワールズ』(講談社)が本屋大賞第3位、吉川英治文学新人賞を受賞したほか大きな話題に。主な著書に『ふったらどしゃぶり When it rains, it pours』(新書館)、『パラソルでパラシュート』(講談社)、『砂嵐に星屑』(幻冬舎)など多数。
美しい文章、美しい物語に、ただただ浸ってほしい
本作『光のとこにいてね』は、ある2人の女の子の四半世紀に及ぶ出会いと別れ、そして邂逅を描いた物語です。
読書の感動を伝える定型句として、「これは自分の物語だ」というものがありますが、この物語を読みはじめる前、私(36歳・男・趣味はゴルフ)は正直に言って「自分の物語ではないな」と思っていました。自分の人生とはあまりに遠いところにある物語のように思え、担当者として、そのことに一抹の不安も覚えなかったといえば噓になります。
しかし、読みはじめると不安はすぐに霧消しました。思うに任せない人生のなかで、主人公2人が見せる、互いを思いやる行動、交わす言葉の一つ一つ。そのピュアで透き通った美しさ。それらが静謐に、丹念に描かれ、頁をめくるたびに、ふつふつと込み上げてくるものがありました。彼女たちが人生で試練を迎えるたびに、どうにかして2人の背中を押してあげられないものかと、歯噛みさえしたほどです。
そして物語を読み終えた時、私の胸に去来したのは「これは確かに自分の物語ではない。なのになぜ、こんなにも心が震えるのだろう」という思いでした。こんな読書体験はほとんど初めてだったように思います。
小説の社会的な役割のひとつとして、今日的なテーマ/題材をいかに切り取り、提供するかというものがありますが、この本に、私はあえてその任を負わせたくないな、と思いました(できないという意味ではなく)。
ただただ美しく、圧倒的な物語がここにある。それをそのまま、皆さんにも味わっていただきたい。願わくは、一穂さんが起こしてくれた感動の波紋が、一人でも多くの読者に届きますよう。
オブジェ制作のマツバラリエさん、デザイナーの大久保明子さんによる美しい装丁も魅力のひとつです。物語で印象的な“光”を表現するために、本書で(おそらく)初めて試した加工もあります。是非、書店店頭で手に取って、物語世界を肌で感じていただけると嬉しいです。
(文藝春秋 文藝出版局第二文藝部 柘植学)
光のとこにいてね
著者:一穂ミチ
発売日:2022年11月
発行所:文藝春秋
価格::1,980円(税込)
ISBN:9784163916187