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犯人は町の住民108人の中にいる!疑心暗鬼になった住民達は…|美輪和音『私たちはどこで間違えてしまったんだろう』

秋祭りの広場で起きた、無差別毒殺事件。平和な村は疑心暗鬼に陥り、騒動が相次ぐ。美輪和音のダーク・ミステリーが、人の心の暗い部分を炙り出す。


美輪和音は、デビュー作を表題にした短篇集『強欲な羊』から、常に人の心のドロドロとした部分を抉り出す、強烈な物語を書き続けている。本書もそのような作品だ。凄惨な事件の起きた町を舞台にしたストーリーは、実に息苦しい。だが、事件の謎と、濃密な人間ドラマに興味を惹かれ、ページを繰る手が止まらないのである。

東京から3時間以上かかる夜鬼町は、辺鄙な片田舎である。人口は少ないが、町民たちは家族のように仲がいい。だが秋祭りの広場で起きた事件によって、すべてが変わる。配られたお汁粉に、農薬が混入されていたのだ。これにより、主人公の真壁仁美の母親が死んだ。仁美には、岸田修一郎と景浦涼音という幼馴染がいる。その修一郎の妹と、涼音の弟妹も死んでしまった。無差別殺人か、被害者の誰かを狙ったのか。とんでもない事件に町は揺れ、人々は疑心暗鬼に陥る。

修一郎に引っ張られて仁美は、犯人を見つけようと、町民たちに話を聞いて回る。4年前に起き、死人まで出た少女誘拐事件は、今回の件に関係があるのか。犯人像は二転三転し、町ではさらに騒動が続くのだった。

本書のプロローグで、監獄実験に触れられている。看守役と囚人役を学生に演じさせることで、人がどうなるかを検証した心理実験だ。これがあるからだろうが、本書のテーマは“囚われる”ことだと感じられる。なぜなら町民たちは、物理的にも精神的にも囚われているからだ。

まず物理の面に注目しよう。すばり、夜鬼町のことである。誰が犯人か分からず、町民たちの不安は募る。そして、ちょっとでも怪しい人がいれば犯人と決めつけるのだ。疑いが晴れれば、また別の人を犯人と思い込む。夜鬼町で生きるしかない人々にとって、町そのものが監獄になってしまっているのである。

一方で人々は、精神的にも囚われている。しかたがないとはいえ視野狭窄となった人々の言動は、どんどんエスカレートしていく。中盤で意外な事実が明らかになるが、それさえも呑み込んで騒動は収まらない。人々の心が、暗い部分に囚われているからなのだ。

その渦中で仁美は、何を思うのか。異様な迫力に満ちた終盤の謎解き場面を経て、明らかになった事件の真相に驚かされた。それと一緒に、示された希望に救われた。誰でも何かに囚われることがある。でも、解放される道も必ずある。本を閉じて、そんなことを考えた。


私たちはどこで間違えてしまったんだろう
著者:美輪和音
発売日:2023年2月
発行所:双葉社
価格:1,980円(税込)
ISBN:9784575246056


双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」にて著者・美輪和音さんのインタビューが公開されています。

著者・美輪和音さんのインタビュー記事はこちら

「小説推理」(双葉社)2023年4月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載