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特殊能力を持つ猫が“最後の願い”をお手伝いします|槇あおい『猫の目を借りたい』

死んでしまって会えなくなった人に、もう一度会いたい。その願い、この目が叶えます。ハートウォーミングな感動物語


借りたいのは“手”ではなく“目”なのか。でも、それってどういうこと。強い興味に惹かれて、槇あおいの『猫の目を借りたい』を読み始めた。

理不尽なバッシングを受けてイラストレーターを辞め、引きこもるように暮らしている島村千鶴。しかし家族のように思っている叔父の桔平が入院したことで、人生が変わる。飼い猫のユキの面倒を見るため、叔父の家に引っ越したのだ。

ところがユキには不思議な能力「猫語り」があった。白猫でオッドアイのユキは、成仏できない霊を瞳の中に宿らせ、7回瞬きする間だけ、この世の人と対面させることができる。代価は、霊が話す「人生で一番幸せな思い出」だ(ユキは“お布施”といっている)。なにも知らなかった千鶴だが、いきなり霊が現れ、訳が分からないままに「猫語り」の仲介役を務めることになるのだった。

本書には「老弁護士」「ぼくの家族」「新盆」の3作が収録されている。冒頭の「老弁護士」は、仕事に出かけて倒れ、そのまま死んだ弁護士が、家を出るときに話しかけた妻を邪険に扱ったことを後悔。何を話そうとしたのか聞こうとする。お布施である、過去の家族旅行の思い出が、仕事人間だが家族のことを大切に思っていた、弁護士のキャラクターを鮮やかに表現。だからユキの目を通じての、弁護士と妻の対話が、切なく温かいのだ。

続く「ぼくの家族」は、若くして殉職した消防士が、自分と妹を育ててくれた祖父の憂いを晴らそうとする。ラストの「新盆」は、突然の死を迎えた中年男が、母親のように感じていた大家への不義理を謝る。

血の繋がりがない関係もあるが、3人の霊の心残りは、すべて家族のことといっていい。その心残りが「猫語り」によって、優しく果たされる。また、霊の話を聞いて千鶴の描く絵も、物語に温かさを加えている。どれも、心がポカポカしてくるストーリーなのだ。

さらに現実に打ちのめされていた千鶴が、霊たちのために奔走しながら、しだいに立ち直っていく。ここも本書の読みどころだろう。叔父の桔平や、千鶴が最初は苦手にしていた隣人の高井戸重雄など、脇役もいい味を出している。もちろんユキも魅力的。猫、ファンタジー、胸に沁みる話。どれかひとつでも好きならば、迷わず本書を手に取ってほしいのである。


猫の目を借りたい
著者:槇あおい
発売日:2023年2月
発行所:双葉社
価格:770円(税込)
ISBN:9784575526417


双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」2023年2月21日(火)公開「ブックレビュー」より転載(レビュアー:細谷正充)