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2024年に創刊20周年を迎える『NYLON JAPAN』。WEB時代にも打ち勝つ雑誌の強み|【連載】編集長雑記

NYLON JAPAN(カエルム)

各出版社を代表する雑誌の編集長によるリレー連載「編集長雑記」。

今回は、ストリート・モード系のスタイルを中心に、流行ファッションやトレンドの最先端を走るカルチャー誌『NYLON JAPAN』編集長の戸川貴詞さんです。

NYLON JAPAN』創刊から同誌に携わり、編集長として活躍されている戸川さん。創刊20周年を控え、創刊当初の思いや、“NYLONらしさ”を届ける誌面作りについて、綴っていただきました。

▼『NYLON JAPAN』最新号はこちら

NYLON JAPAN (ナイロンジャパン) 2024年 02月号
著者:
発売日:2023年12月27日
発行所:カエルム
価格:1,000円(税込)
JANコード:4910068910240

 

時代の変化を楽しみながら成長し続ける雑誌作りへのこだわり

『NYLON JAPAN(ナイロン ジャパン)』は、おかげさまで、2024年4月に創刊20周年を迎えることとなりました。

創刊時の2004年は、マーク・ザッカーバーグ氏がSNSの先駆けであるFacebookをローンチし、WEB2.0の時代に突入したと言われる年です。インターネットの普及で雑誌や新聞などの紙メディアは衰退し、当時から10年後には、その役割は全てネットに変わると言われていました。2007年にアップル社から初代iPhoneが発売されてからのスマホ時代への変換は、ご存知の通りあっという間の出来事でした。そして今は、すでにWEB3.0の時代へと進み始めています。

こういった時代の変化に対して、出版“業界”は常にネガティブに捉えられ、かれこれ20数年の間、斜陽の話を聞かされ続けています。でも、現実に僕たちが生活している場所には、今でも本も雑誌も溢れています。世界的に見ても、たしかに日本以上に紙メディアが衰退していっていることは間違いないですが、それでも“存在”し続けています。

そもそも違うレイヤーのものを同軸で捉えて語ること自体がナンセンスで、このことはずっと言い続けてきましたが、「WEBがあるから雑誌がなくなる」というような無意味な論争は、ビジネスを理解できていない人たちの間で、今でも時折行われています。必要なものは残り、不必要なものはなくなる。これは正常な世の中の構造だと思います。これは出版業界だけの話ではなく、世の中全ての物事が“諸行無常”である限り、ビジネスの世界で変化をしないことは、すなわち“終了”を意味します。なので、20年間ある程度の存在意義をユーザーの皆さんに示し続けてこられた理由はと問われれば、昨日までの常識を疑い、積み上げてきたものを壊し、変化を楽しみ、また今日から新しいものを試行錯誤して作る、この繰り返しに尽きます。

『NYLON JAPAN』を創刊した時、どこかのインタビューで競合誌や目指す雑誌のイメージを問われ、「そもそも雑誌を作るつもりはありません」という趣意の発言をした記憶があります。それは、世の中にある“雑誌”の概念や、雑誌を作ってきた多くの方たちの“雑誌とはこうあるべき”という言葉に、雑誌に携わり始めて間もなく、ものすごく違和感を持っていたからです。カテゴライズされた既成概念に惑わされず、“世の中に必要とされるものを、自分で考え自分で作る”ということ以外、『NYLON JAPAN』が今でも多くの書店、ネット書店に並び続けている理由はないと思います。手前味噌な話になりますが、おかげさまで『NYLON JAPAN』は、今期過去最高の販売、広告売り上げを達成し、今でも成長を続けています。

今回、文字数制限があるので、起承転結の“承転”を省いて、一気に結論にいきたいと思います。

『NYLON JAPAN』は創刊当初より、雑誌ではなく“ブランド”であり“コミュニティ”だと言い続けてきました。時代の変化とともに、WEB、SNS、さらにはAI、ブロックチェーンといった次世代の技術が日常となった今、やはり考え続けるべきことは、人々の中にある“心”についてだと思います。そのいろんな色や形をした“心”に触れ、受け止め、寄り添い続けることこそが、ブランドを育て、コミュニティを形成し、ユーザーの皆さんにたくさんの価値を提供し続けられるのだと思います。

『NYLON JAPAN』は、20周年を境に、海外での展開を含め、よりグローバルに発信していく予定です。雑誌、WEB、SNS、イベント、マーチャンダイジング、映画、NFTなどの展開を通じて、これからも皆さんに求め続けられる“NYLONらしさ”を提供し続けていきたいと思います。

最新のトレンド情報、読者からの反響で印象に残った企画、ファッションやカルチャーについて、といった内容が今回寄稿させていただくにあたってのご要望だったのですが……、どこかで機会がございましたらぜひ。

一つだけ! 一番印象に残っているのは、やはり創刊号(厳密には、正式な創刊はその2カ月後)で表紙に登場していただいた「宇多田ヒカル」さんです。創刊にあたっての撮影秘話だけで、軽く2万字は書けそうなくらいの印象的なエピソードがあります。2024年の創刊20周年プロジェクトでは、それに負けないくらいの面白いことを、いろんな形で仕掛けていきますので楽しみにしていてください。

これからもずっと、『NYLON JAPAN』をよろしくお願いいたします。

 


カエルム NYLON JAPAN編集長
戸川貴詞 TOGAWA Takashi
2001年、カエルム設立。2004年に、ニューヨーク発のファッション&カルチャー雑誌『NYLON JAPAN』を創刊し、現在まで編集長を務める。