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【Vol.12:岩下悠子】編集者が注目!2024年はこの作家を読んでほしい!

ほんのひきだしでは、この年末年始も13日間にわたり、各出版社の文芸編集者の皆さんが【いま注目の作家】を紹介する「編集者が注目!2024年はこの作家を読んでほしい!」をお届けします。

ぜひ、気になる作家や作品を見つけて、書店に足を運んでみてください。

 

東京創元社編集者 船木智弘さんの注目作家は「岩下悠子」

岩下悠子(いわした ゆうこ)
1974年東京都生まれ。1997年「砂の蝶」が第23回城戸賞を受賞。「相棒」「科捜研の女」をはじめミステリ・ドラマの脚本を数多く手掛ける一方、2012年に小説「熄えた祭り」を発表する。2017年に同作を含む連作集『水底は京の朝』を刊行。流麗な筆致と卓越した構成で、ふたつとない小説世界を紡ぐ俊英。

 

人間の心奥を描き出し、忘れがたい余韻を残すミステリの書き手

作家さんとの打ち合わせは、驚かされることがたくさんあります。

これまでの作家としてのイメージを打ち壊す野心的な提案や、見慣れた題材に新しい切り口を見出す革新的なアイディアなど、作品の種(のようなもの)が芽吹く最初の現場に立ち会う瞬間は、いつも驚きと期待があります。

そのなかでも作家の岩下悠子さんから、「変身」をテーマに書きたいです、と言われた時のことは、10年ちかく経った今も憶えています。

TVドラマ「相棒」や「科捜研の女」の脚本家として活躍されている岩下さんがお書きになる小説は、濃密な幻想性を纏った謎が人間の心理を交えて解き明かされて、ミステリとして完成度も高く、その世界にすっかり惹かれた私は、東京創元社でもミステリをお書きいただきたいとお願いしました。しかし「変身」と言われたとき、カフカの小説『変身』のこととわかっていても、それがどのようにミステリになるのか、まったく想像もつかなかったのです。

既に単行本として一冊にまとまり、2024年に文庫が刊行される『漣の王国』をお読みになった方は、きっと私と同じように腑に落ちることと思います。この小説のなかでは、人間の変容がさまざまなかたちで変奏されています。そのうえで、ひとはなぜ変わることを望むのか。「変身」の物語であると同時に、ひとびとの見えざる心奥を描出する傑出したミステリになっています。

『漣の王国』の単行本が刊行された際、私は以下のようなことを書きました。「きっと、この感動は、誰もの心の深くまで降るものと確信して、この本を送り出したいと思います」。文庫化にあたって読み返してなお確信はすこしも変わっていないどころか、もっと新しい世界を見せてほしくなりました。岩下悠子さんがこれからどのような小説をお書きになるのか、伴走する編集者として――なにより、ひとりの読者として心から楽しみにしています。

(東京創元社 編集部 船木智弘)

 

※『漣の王国』【文庫版】は1月19日(金)発売予定です

漣の王国
著者:岩下悠子
発売日:2024年01月
発行所:東京創元社
価格:946円(税込)
ISBNコード:9784488484217