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【Vol.4:野々井透】編集者が注目!2024年はこの作家を読んでほしい!

ほんのひきだしでは、この年末年始も13日間にわたり、各出版社の文芸編集者の皆さんが【いま注目の作家】を紹介する「編集者が注目!2024年はこの作家を読んでほしい!」をお届けします。

ぜひ、気になる作家や作品を見つけて、書店に足を運んでみてください。

 

筑摩書房編集者 守屋佳奈子さんの注目作家は「野々井透」

野々井透(ののい とう)
1979年、東京都生まれ。小説家。第38回太宰治賞受賞作『棕櫚を燃やす』でデビュー。同作は第36回三島由紀夫賞候補作に選ばれた。『新潮』2023年12月号に中篇小説「柘榴のもとで」が掲載、『群像』など各誌にエッセイも寄稿している。

 

どこか不穏でなつかしい世界

野々井透さんは2022年に『棕櫚を燃やす』で太宰治賞を受賞して小説家デビューされました。

太宰治賞の選考当時、応募作であった『棕櫚を燃やす』の原稿を、会社近くのカフェではじめて読みました。昼食のついでに少し読んだら戻るはずが、この不気味さは何なのか、この家族はどうなるのかと謎にひっぱられるように夢中で読み進め、なんだかわからないがすごい!と興奮気味に会社に戻ったことをおぼえています。

『棕櫚を燃やす』は、東京の庭付きの一軒家に暮らす、父と30代の姉妹の物語です。ある日「白衣の人」から父のからだに何かが棲んでいると告げられ、姉妹は父の余命が「いちねん」であることを知ります。3人だけの心地よい関係を作ってきた家族の一年間を、小説は丁寧に追いかけます。

小説のなかの場所やものが、いまも印象に残っています。庭、高速道路、食卓と、家族の「いつもの場所」から、記憶の断片が浮かび上がってくるのですが、それがすこし不思議で魅力的なのです。

「父の好きなパーキングエリアは、飲み物の自動販売機とトイレと細長い休憩スペースという必要なものだけが在る場所で、そこは時空のポケットみたいだった。」

「その晩、父は本当に久しぶりに酔って帰ってきて靴下を廊下に脱ぎっぱなしにした。くしゅっとなったふたつの黒い靴下を私は写真に撮った。」

「こうしてすべて忘れていってしまうとしても、今日の鮎の匂いは私の中に残したい。」

そのなじみの場所にも、すこしずつ変化が訪れます。この変化を主人公である姉・春野はどう受け止めるのか。ぜひ読んでいただきたいです。

『棕櫚を燃やす』は、今年の3月に短編「らくだの掌」を加えて単行本になり、同年三島由紀夫賞候補にノミネートされました。「らくだの掌」はユーモアと同時に暗さを感じる短編。『新潮』12月号に掲載された最新作「柘榴のもとで」は、『棕櫚を燃やす』とはまたひとあじ違う家族の中編です。次はどんな作品を書かれるか、楽しみでなりません。

(筑摩書房 編集部 守屋佳奈子)

棕櫚を燃やす
著者:野々井透
発売日:2023年03月
発行所:筑摩書房
価格:1,540円(税込)
ISBNコード:9784480805119