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馳月基矢「拙者、妹がおりまして」のスピンオフ始動!『義妹にちょっかいは無用にて』は新たな兄妹の物語

馳月基矢の「拙者、妹がおりまして」シリーズは、全10巻で完結した。本書は、そのスピンオフ・シリーズだ。新たな兄妹の物語は、ここから始まる。

時代小説の俊英・馳月基矢の「拙者、妹がおりまして」シリーズは、全十巻で完結した。大団円を迎えたことを喜ぶと同時に、これで「妹おり」の世界とお別れかと、淋しく思ったものである。だが作者は時間を空けることなく、スピンオフ・シリーズを開始した。こちらの主人公も、前シリーズと同じく兄妹だ。ただし血の繋がりはない。

「妹おり」の主人公は、手習所の師匠をしている白瀧勇実と、その妹の千紘である。白瀧家の隣にある矢島道場の跡取りの矢島龍治と、勇実に助けられたことを切っかけに千紘と無二の親友になる亀岡菊香が、準主役といっていいだろう。もちろん他にも、多数の登場人物がいる。その一人が、千紘の幼馴染みの大平将太だ。かつては扱いの難しい暴れん坊だったが、いまは手習いの師匠をしながら学問をしている。「妹おり」の第九巻で、その将太に妹ができる。長崎の薬種問屋の娘・理世だ。江戸での縁談のために大平家の養女になったが、相手方の事情により破談。そのまま大平家で暮らすことになったのである。にわか兄妹であるが、将太と理世の仲は良好だ。

本書は全四話で構成されている。第一話は、将太たちの紹介篇だ。勇実は菊香と夫婦になり、今は昌平坂学問所で史学を教えている。残された手習所を引き継いだのが、龍治と夫婦になった千紘と、将太であった。新たに「勇源堂」と名付けられた手習所で、将太は一生懸命に働いている。

前シリーズの四人と、将太と理世が酒宴を楽しむ場面を通じて、作者は各人物のキャラクターを際立たせる。本書から読み始めても、すんなりと物語の世界に入っていけるだろう。

さて、将太と理世が酒宴から家に帰ると、将太の京都遊学先の下男をしていた吾平と再会。事情があり、大平家で雇ってもらいたいというのだ。この騒動を通じて、過去のあれこれにより、大平家では委縮している将太の日常が露わになる。また、学派にこだわらない学問の場を作りたいという将太の理想が明かされるが、父親の邦斎に一蹴された。そんな兄を理世は心配する。

以後、将太の遊学先での学問仲間・霖五郎が現れたり、手習所の隣りの屋敷の住人になった浅原直之介と知り合ったりして、将太の理想に賛同する。一方、理世の行動により、堅苦しい大平家にも、変化の兆しが見え始めた。将太だけではなく、理世にも江戸の武家暮らしに、なかなかなじめないという苦労がある。それぞれに悩みを抱えながら、まっすぐに成長しようとする兄妹と、それを見守る人々の姿に、温かな気持ちになってしまうのである。

ところが第四話で、橘朱之進という正体不明の人物が兄妹と絡み、不穏な空気が漂いだす。過去のことから、自己を律しすぎる将太と、理世の関係はどうなるのか。大平家は、よい方向に変わるのか。将太の理想は実現するのか。シリーズは、まだ始まったばかり。だから先が気になってならない。彼らの歩む道がどうなるのか、最後まで見届けたいものである。

義妹にちょっかいは無用にて 1
著者:馳月基矢
発売日:2023年10月
発行所:双葉社
価格:704円(税込)
ISBNコード:9784575671797

双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」にて『義妹にちょっかいは無用にて』の試し読みが公開されています。

『義妹にちょっかいは無用にて』の試し読みはこちら

2023年10月14日(土)公開「ブックレビュー」より転載