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「非生産的」というレッテルを貼られた人々の奮闘記!|和田裕美『それでも会社は辞めません』

和田裕美さん『それでも会社は辞めません』書影

「辞めたい理由を掘り出していけば井戸の深さほどになる」けれど。「たとえ大勢の人から注目を浴びなくても、たくさんの褒め言葉をもらえなくても」それでも会社は辞めません!

会社は動物園みたいだと思う。大きな動物、小さな動物、強くて逞しい動物も、繊細で脆弱な動物も、姿形も生態も全く異なる生き物たちが同じ場所に集められている。多くの大人が一日の大半の時間を過ごす会社とやっぱり似ているように思う。

本書は、創業40年、従業員数300名ほどの中堅人材派遣会社『パンダスタッフ』のAI推進部に所属する人々を中心に描かれる物語。『AI推進部』はIT化を促進する部署かと思いきや、実のところ“AIにとって替わられる”人たちの部署だと言われている。物語の序盤、所属の社員さえも自部署のことを「回収される前のゴミ置き場みたいな感じ?」と説明していた。

そんなAI推進部の面々にはそれぞれに元の部署から異動になった経緯がある。仕事の効率が悪いから生産性が低いとみなされる。誰かを庇い、理不尽の波に飲まれ諦めてしまう……。

連作短編の各話で明らかになるそれぞれの経緯を知ると、必ずしも異動の原因になるような『失敗』なのか? と考えずにはいられない。会社に損失がある一方で、救われた人がいる。しかもその損失でさえも、長い目で見ると会社にとっての利益になったこともある。それでも、会社の中では『評価に値しない』と判断されてしまう。

社会の中では、物事の正しさや正義は、場面やそれを判断する人によって変わってしまう。登場人物たちと共に悔しさややりきれなさを感じながら読み進めた。

そして最終話。地道に実直に働いてきたAI推進部の社員たちにかすかな光が差す──

ビジネス書の著者として多くの会社・ビジネスパーソンを見てきた和田裕美さんだからこそ、社会の理不尽さも、そこに差すわずかな光も、リアリティをもって物語の中に描くことができたのではないかと思う。

すべての働く人たちにきっと、輝ける場所はある。ささやかでも、誰かにとってのヒーローになれるような仕事がきっとある。

動物園の動物たちがそれぞれに、子どもたちにとってのヒーローであるように。

すべての働く人を讃える、お守りにしたいような力強い応援本!

それでも会社は辞めません
著者:和田裕美
発売日:2023年10月
発行所:双葉社
価格:836円(税込)
ISBNコード:9784575526981

双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」にて著者・和田裕美さんのインタビューが公開されています。

著者・和田裕美さんのインタビュー記事はこちら

『小説推理』(双葉社)2023年12月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載