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「私がその『鬼』です」地獄から現世に逃げた罪人を焼き尽くす!『阿鼻王地獄を出る』

地獄のパイオニア、現世に初登場

思わず何度も「かわいい」と言っちゃうけど、“彼”は地獄の先駆者だ。

頭上にフクロウ的な何かが集まってる小さな少年。……いい。帽子のフカフカ感もいいし、着物がずるずるに長いところもいい。このおちびさんの名前は“宗次郎”。

「獄卒」というのは、地獄で罪人を苦しめる鬼のことだ。そんなハードな汚れ仕事を担当しているとは思えない容姿の宗次郎……いや、仕事で外見を決めるなかれ。なんせ『阿鼻王地獄を出る』では閻魔大王様だってこんな感じだ。

つい「え、かわいいね?」と言ってしまった。デンデロ~と浮いてる鬼の首も妙にかわいい。

さて、そんな閻魔大王様がポカーンと地獄の空を見上げるその瞬間、地獄ではまったくかわいくない事件が起こっていた。

地獄に墜ちた犯罪者たちの魂が、現世に逃げ出したというのだ。「一応」ってことは、閻魔大王様と宗次郎はガチガチの上司と部下ってわけでもなさそう。で、一応報告を受けた閻魔大王様は「わかった」と宗次郎を送り出す。信頼が厚いようだ。だが、こんな気になることも言う。

初めての現世での「仕事」、うまくいくかな!? なんだか子どもの初のおつかいを見守る親の気分だよ。

 

地獄から舞い戻ってきた悪党は当然悪いことをする

地獄に墜ちるくらいの悪事をはたらくような奴らだから、現世に戻ったとて心を入れ替えるわけがない。宗次郎が現世に向かったころ、すでに「事件」は起きていた。

“りずな”の幼なじみ“玲奈”が行方不明に。家族は「どうせいつものこと」なんて気にしてないけれど、いつもとは何かが絶対に違う。りずなは自分なりに玲奈を探し歩き、宗次郎と出会う。

あ! この登場のしかたは、地獄っぽい!

フクロウたちの憩いの場みたいになってる帽子の下は、そうなってるのね……。あっさり正体を明らかにする宗次郎。

逃げた魂はそのままの姿では活動できないようだ。つまり自分のすぐ隣にいる善良な誰かが罪人に取り憑かれ、操られている可能性もある。

りずなの嫌な予感は当たっていたのだ。早く探さないと。ということで、ここから捜査パートが始まる。本作の罪人たちは地獄の不思議なパワーでチョロッと都合よく見つかったりしない。地道にひとつずつ手がかりを探して推理を重ねる。

現世は初めての宗次郎には、わからないことだらけ。

でも、新しく知った情報をどんどん結びつけて事件の核心に迫る。園児みたいだなと思った数秒後には探偵になっている。

浮世離れした名探偵(宗次郎)と、ヘンテコな名探偵に振り回される優秀な助手(りずな)のコンビが楽しい。いつか集団脱獄の謎にも迫るのだろう。

こうして知恵と機転と推理によって追い詰められた罪人は姿を現し、大立ち回りの末、宗次郎の処刑が始まる。本作に出てくる罪人はみんな怖い。しかも異なるタイプの怖さで迫ってくる。

 

阿鼻地獄の鬼

さて、チビの宗次郎はどれだけ怖い存在なのか。ここで再び私のお気に入りの閻魔大王様にご登場いただこう。宗次郎がどんな地獄にいたかを教えてくれる。

「ヒィ~~」みたいな悲鳴のことを阿鼻叫喚と何気なく呼んできたけれど、そうか、地獄の名称だったのか。阿鼻は、最も歴史ある最悪の地獄。そこで罪人に責め苦を与えるのが宗次郎の仕事。だから「かわいいチビめ!」なんて侮ってはいけない(ちなみに宗次郎の頭上でピヨピヨしているフクロウたちにも油断してはいけない。あいつらは結構怖い)。

苦手なこともあるし、現世にもとっても疎い。でも罪人が地獄から出ることを絶対に許さない。逃れた罪人を必ず捕らえ、火でギッタギタに焼き、元いた地獄よりもさらに酷い地獄へ送り込む。

なにせ宗次郎は“阿鼻王”と呼ばれていた鬼なのだから。

(レビュアー:花森リド)

阿鼻王地獄を出る 1
著者:日口十二
発売日:2023年10月
発行所:講談社
価格:550円(税込)
ISBNコード:9784065334621

※本記事は、講談社コミックプラスに2023年11月14日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。