俳優、歌手、ナレーターなど、幅広い分野で活躍中の上白石萌音さん。そんな上白石さん初の著書となる『いろいろ』が、9月25日(土)に発売されました。
動詞を副題にした書き下ろしエッセイ50篇のほか、短篇小説や自身撮影のスナップショットも含む豊富な写真を収載。「ありのままの“上白石萌音”」がたっぷり込められた本書について、お話を伺いました。
- いろいろ
- 著者:上白石萌音
- 発売日:2021年09月
- 発行所:NHK出版
- 価格:1,980円(税込)
- ISBNコード:9784140818633
【プロフィール】
かみしらいし・もね。1998年、鹿児島県生まれ。2011年、第7回「東宝シンデレラ」オーディション審査員特別賞受賞。俳優のほか歌手、ナレーター、声優など幅広く活躍。ドラマ「ホクサイと飯さえあれば」「恋はつづくよどこまでも」「オー!マイ・ボス!恋は別冊で」、映画「舞妓はレディ」「君の名は。」、舞台「組曲虐殺」「ナイツ・テイル―騎士物語―」など出演多数。21年度後期連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」ではヒロイン(安子)、22年2月からの舞台「千と千尋の神隠し」では主演を務める。
隠しておきたい部分も、包み隠さず書いた
――エッセイ集『いろいろ』は初の著書となりますね。執筆のオファーを受けたときの気持ちをお聞かせください。
幼い頃から本が大好きだったので、夢のような気持ちと、恐れ多い気持ちが同時に湧いてきました。「ありのままを記録してみてください」という担当編集者さんの言葉に背中を押されました。
――エッセイには「踊る」「視る」「懐かしむ」などそれぞれ動詞の副題がつけられているのがユニークです。「料る」など、この本で初めて知った言葉もあって、興味深かったです。目次には50個の動詞が並んでいますが、どのように選ばれたのですか?
2パターンあります。1つは動詞を決めてから、その言葉にまつわるエピソードを綴ったもの。もう1つは逆に自分なりの考えや出来事を書いて、その内容を一言で表すなら何かなと考えて付けたものと、両方あります。
――「歌う」「演じる」など、言葉と密接なお仕事をされている萌音さんならではのエッセイもありますね。
ほかにも、「生きる」など自分と切っても切り離せない営みを言語化してみた時は、考えが整理されて靄が少し晴れたような気がしました。
――そういった、ご自身の内面を文章化するにあたって、どのようなことを意識されましたか?
無理に結論もつけずに、着飾らない言葉で書くようにしました。本当なら隠してしまいたいような不完全な部分や未熟な部分、不確かな部分も包み隠さずに書いたつもりです。
――「原稿や歌詞を提出する時は、心の内側を覗かれるみたい」と書かれています。「包み隠さず」はなかなか勇気が要りそうです。
ものすごく要りました。なので、完成がとてもうれしい気持ちと、あまり読んでほしくない気持ちの両方があります。やはり恥ずかしいですね。
初の小説作品も収録!大好きな場所と人々も登場
――仕事以外の、余暇の時間はほとんど執筆に費やされたと聞きました。その間、ずっとご自身と向き合われるのはさぞかし大変だったのでは?
パソコンに向かっていない時もエッセイのタネを探していたので、本のことが常に頭の中にありました。本が好きで、作家さんへのリスペクトがあるからこそ踏み入れてはいけない領域な気がしていましたが、書くことで改めて自分を深いところまで見つめ直すことができました。
これまで逃げがちだった「自分と向き合う」ことを続ける中で、自分の拙さが見えてきて葛藤することも多く、原稿を提出するまで時間がかかりましたけれど、その分、脱稿したときは「自由だ!」という達成感がありました。いまでは挑戦してよかったなと思っています。
――本書には初の短篇小説も収録されています。小説も「ほどける」という動詞のタイトルですね。“感情”や“家族”など、エッセイと呼応するような設定に引き込まれて、読み応えがありました。
小学校の卒業文集くらいしか書いたことがなくて、ちゃんと小説という形にしたのは今回が初めてです。4か月くらい頭の中で考えていたものを、3日で文章にしました。
最初に思い付いた「涙が止まらなくなってしまった人」のストーリー展開が、当初のコンセプト通り最後までぶれずに書けたので、我ながらいいアイデアだったなと思っています。
――萌音さんがファンを公言されている芸人さんも作中に描かれていて、にやりとさせられました。
どなたかはお楽しみにしていただきたいのですが、あの方たちの大ファンなんです。せっかくなのでご登場いただいたら、いい感じに物語を締めてくださいました。大好きな人たちを登場させられたのはうれしかったです。
――故郷である鹿児島を小旅行したリポートでは、思い出の場所だけでなく、ご家族の横顔も紹介されていますね。
実家にカメラが入ったのは初めてでしたのでソワソワしました。姉妹揃って帰省できたこともあって、家族4人で深いところまで語り尽くすことができ、家族にとっても大切な記念の1冊になりました。
双方の祖父母の家を訪れた際の写真もありますが、両親に「プライバシーだしどう思う?」と掲載を相談したんです。そうしたら、「載せていいと思うよ。でも本人たちに言ったら絶対に恥ずかしがるから、出版されるまで秘密にしよう」と。なので、本に載ったことはまだ話していないので、びっくりすると思います(笑)。
――執筆や取材についてはもちろん、デザインの打ち合わせから紙やフォントの選定まで、本づくりの工程を紹介した『いろいろができるまで』のページも本好きの萌音さんならではの企画ですね。
本をつくると決まったときから、できたらうれしいなと思っていた、お気に入りページです。どういうふうに1冊の本がつくられているのかは、私自身が知りたかったことでもあります。
今回、1つ1つの工程に関わり、意見も聞いていただきながら、手触りや温もりを大事にセレクトしていきました。わたしの趣味趣向が完全に表れています。本がこんなに丁寧に、緻密につくられていることにとても感動しましたし、知れば知るほどそれを読者の方に伝えたいという思いが湧いてきました。
▲題字の「いろいろ」は上白石さんの直筆で、カバーは上白石さんの「いろ」を自在に感じ取ってもらえるようにと、シンプルなデザイン。紙の質や色、栞にもこだわった「手触り感」を大事にした造本だ
本屋さんは「知らないことがいっぱいある」と実感できる空間
――読者としてはどんなジャンルの本がお好きなのですか?
小説とエッセイが好きです。エッセイについては好きな作家さんのエッセイが出ると聞いて、うれしくて買ったのが最初でした。好きな人の思考を知ることができたり、日常の中で見過ごしていたものに気が付いたり、こういうものの見方があるのかと教えてもらったり。フランクに新しいことを知ることができるのがいいですね。
――それはまさにこの本にもいえることですね。本が大好きになったきっかけは、「小学校の図書室の先生だった」と書かれています。
素敵な本ばかりを薦めてくださる先生にあこがれて図書室に通い、本をたくさん読むうちに、読書が大好きになりました。
また、小さい頃よく祖父母の家に泊まりに行っていたのですが、家の近くに大きなTSUTAYAがあって、泊まりに行くたびに「好きな本を選んでいいよ」と連れて行ってもらいました。絵本や「小学一年生」、青い鳥文庫といった児童書など、成長にあわせて本を買ってもらったこともなつかしい思い出です。
――現在もご自身で書店に足を運ばれることはありますか?
いまでも書店に行くのは大好きで、よく行くのは家の近所の、いわゆる「街の本屋さん」です。そのお店の書店員さんは私を上白石萌音として認識してくださっているのか、常連として覚えてくださっているのかはわからないのですが、行くと目であいさつしてくださいます。
そこは大きなお店ではありませんが、ベストセラーから話題書、専門的な本まで魅力的なチョイスがされていて、必ずほしい本に出合えます。品揃えのセンスがとにかく良くて、つい4、5冊買って散財してしまうので、通いすぎないように気を付けています(笑)。
――書店ではどのように本を選んでいますか?
本を買うときは、帯や装丁のデザイン、タイトルなど、限られた情報でパッと買うことが多いです。いわゆる“ジャケ買い”ですね。
そういった「本の顔」にはしっかり中身が表れていると思っていて、期待が外れることはほぼありません。「本の中身を表紙でジャッジするな」という英語のことわざがありますが、やはりヒントはあるし、好みの本は表紙からもだいたいわかります。そうやって出合った本は好きになることが多いし、愛着もわきます。
本屋さんでは漫画は大体ビニールがかかっていますが、タイムカプセルみたいでワクワクします。買った人しか中を見られない、おうちに帰ってからのお楽しみという感じがいいですね。
一方で、自分では絶対に手に取らないような本を薦められて、読んで衝撃を受けることも楽しみのひとつなので、今後もいろいろな形で本との出合いを楽しみたいと思っています。仕事場で出会った方に「好きな本はありますか」と聞いて、紹介されたものを読むことも多いです。読書遍歴ってその人自身を表していると思うので、つい質問してしまいます。
――逆に、誰かに本を薦めることもあるのですか?
聞かれたら薦めます。本好きということは友だちも知っているので、突然LINEで、「何か本を読みたいんだけどお薦めある?」と聞かれることもあります。その場合は、超長文で5冊くらい薦めちゃいます。
――本がコミュニケーションツールになっているのですね。ご自身を表す1冊がいよいよ書店に並びますが、いまのお気持ちをお聞かせください。
まさか自分の本が出せるとは思っていなかったので、夢のようです。
本を出すと決まったときから、普通なら著者があまり関わらない本づくりの工程にも参加して、本好きにはたまらない経験もさせていただきました。そんな愛娘みたいな本を大好きな本屋さんに置いていただけることが、何よりもうれしいです。
私にとって、本屋さんという「自分にはまだ知らないことがいっぱいある」と実感できる空間に足を踏み入れて本を選ぶのは、とてもロマンチックで素敵なことです。これからも1人の本好きとしてたくさん本屋さんに行きたいと思いますし、ぜひ多くの方に、素敵な1冊との出合いを探しに足を運んでほしいですね。ワンピース 39,600円(nooy)/イヤリング 3,960円(Matilda rose)/その他スタイリスト私物
※すべて税込金額
問い合わせ先
nooy(ヌーイ) 東京都中央区日本橋堀留町1-2-9 3F TEL:03-6231-0933
Matilda rose(マチルダローズ) https://www.matildarose-online.com
スタイリスト/嶋岡隆、北村梓(Office Shimarl)
ヘアメイク/冨永朋子(アルール)
撮影:チェリーマン