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宮崎駿監督が推薦!美しくも残酷な世界が描かれた物語『失われたものたちの本』【総合3.8】

失われたものたちの本(東京創元社)ジョン・コナリー

失われたものたちの本
著者:ジョン・コナリー 田内志文
発売日:2021年03月
発行所:東京創元社
価格:1,320円(税込)
ISBNコード:9784488517069

 

『失われたものたちの本』の要点

1.母を失ったデイヴィッド。父親の恋人ローズとの軋轢により、心に強い葛藤を持つようになる。そんな中、デイヴィッドは奇妙な体験に悩まされることになる。

2.デイヴィッドは奇妙な世界に迷い込む。そこは恐ろしい者達が住まう王国だった。デイヴィッドは王国の中で母親の声を聞く。デイヴィッドは王に会うため、冒険に出た。

3.ねじくれ男。それは一体何者なのか。ねじくれ男。またの名をトリックスターという。彼はデイヴィッドを助けもすれば、翻弄しもする。

 

『失われたものたちの本』レビュー

「ぼくをしあわせにしてくれた本です」。宮崎駿監督からそんな熱烈な推薦文を寄せられている本書は、物語そのものをテーマとした物語だ。

主人公のデイヴィッドという少年が、母を失うことから物語は始まる。母を失う痛みはデイヴィッドの邪な感情を増幅させていく。そこから、デイヴィッドは摩訶不思議な体験をすることになり、ついには自分も異世界へと迷い込んでしまう。

徐々に日常が夢に切り崩されていく描写には、目を見張るものがある。デイヴィッドの繊細な感情の変化も活き活きと描かれているため、読者もまたこの奇妙な世界にどっぷりと没入することができるだろう。

異世界に迷い込んでからは、さらに奇妙なことの連続だ。それは私たち読者がどこかで見聞きした物語のようであり、またどこかが決定的に違っている。夢のような世界でありながら、その実冷酷で、命に対して容赦のない世界だ。友情やユーモアがありながらも、酷薄で先の読めない展開を読者に突きつける。これほどまでに混沌としているのに、物語の導線はしっかりとしており、読者がストーリーを見失うことはない。作者の類まれなる筆力は、デイヴィッド少年の体験を通して、おどろおどろしい者達を極めて繊細に表現している。油断していると、背筋をゾッとさせられることがある。

平易な文章。明快なストーリー。それでいて奇怪極まりない世界観。こうした類を見ないセンスから紡ぎ出される読書体験は、読者にとって間違いなく特別なものになるだろう。

 

『失われたものたちの本』が気になる方におすすめ

君たちはどう生きるか
著者:吉野源三郎
発売日:2017年08月
発行所:マガジンハウス
価格:1,430円(税込)
ISBNコード:9784838729463