立派な酒飲みになってやる!
酒を飲まない友人から「どうしてもこの居酒屋の〆のラーメンを食べてみたいから、ついてきてほしい」と頼まれることがある。下戸(げこ)が一人で夜の居酒屋に入るのは、歓迎されていたとしても、なんとなく肩身が狭いのだという。酒飲みとしてはお安い御用とばかりに用心棒を買って出る。もう楽しみでしょうがない。
なぜなら、そういう店は酒も他の料理もすばらしいのだ。酒を好きじゃなくたって人生は愉快だけど、酒を楽しめると食の次元が増えるなあと思う。『げこの酒道』はまさにそんな美食マンガだ。酒と仲良くなるための「肴」が次から次へと登場する。
小鍋で温まったカップ酒と、あつあつのじゃがいも塩辛バター! 今まであまり買ったことがなかったけれどカップ酒って楽しそうでいいな。
こんなふうに、酒飲みにも好きな酒と縁遠い酒がある。でもそんな垣根もったいない!
苦めのビールことラガーを克服するにはどんな肴がいい?
ということで、酒飲みさんも、下戸のみなさんも、ぜひ読んでほしい。
これは、下戸人生を送ってきた26歳の男が恋をきっかけに酒の世界へ足を踏み入れ、「立派な酒飲み」を目指す物語だ。ありとあらゆる酒に挑戦していく。
梅酒に合う料理は?
会社員の“飯塚”は、総務の“小笠原さん”のことが最近ちょっと気になる。
牛丼屋さんで思わずビールを頼んじゃう小笠原さん。さすが社内で「可愛すぎる酒豪」と呼ばれているだけのことはある。しかも最後のご飯粒までおいしく食べちゃうセンスの持ち主なのだ。いいなあ。
酒が飲めない飯塚だって「小笠原さんと飲んで食べたら、楽しそうだなあ」と思う。絶対楽しいよね。
よし、ちょっとチャレンジしてみるか! で、人生で初めてハイボールをひとくち飲んで……?
撃沈。咳き込んで「まっず」と言ったら隣の見知らぬ女がハイボールを奪ってグビグビ! 行動もTシャツも全部気になる。彼女の名前は“吉住さん”。飲み屋を営むおかみさんだ。自分の店の定休日にも、よその立ち飲み屋でひとり酒を楽しむくらい、酒が好き。飲み方を考えればすべての酒はおいしいはず……という信念の持ち主だ。
そんな吉住さんは飯塚の記念すべき酒デビューを応援したい。ってことで梅酒で仕切り直し。甘酸っぱくて濃厚で飲みやすい。でもそれだけじゃ終わらない。
梅酒と合う料理ってなんだろう? 小笠原さんが楽しそうに飲んで食べる姿にグッときた飯塚は、自分でも飲んで食べて楽しみたいのだ。それにしても梅酒は難問だ。悩んだ末に吉住さんが出した答えは「焼き鳥(タレ)」。どうして?
なるほどなあ。焼き鳥屋さんに行ったら試してみよう。
こうして飯塚は人生初の飲んで食べてを堪能し、吉住さんの店にも通うように。
ヌートリアTシャツもいいけれど、ザ・おかみさんな姿も美しい。そして「酒に貴賤なし」という言葉が尊い。ウーロンハイ、ひやおろし、カクテル、ワイン……どんどん出てくる酒と、それに合うおいしい肴たち。
肴は、味わいと共に作り方も丁寧に描かれる。これが楽しいのなんのって!
きゅうりの皮をピーラーでスルスル剥くのは楽しい。剥いたあとの皮も捨てずにおいしく食べられるようさりげなく提案されているところもニクい! あまりに楽しそうなので、作ってしまった。
「イカと胡瓜の中華風炒め」。そしてグラスに注がれた金色のビール! そう、この肴は冒頭で紹介したラガービールを美味しくいただくためのもの。なお、本作では甲イカを使っているが、どうしても手に入らなかったのでスルメイカにご登場いただいた(お魚屋さん曰く「最近ないのよ、秋頃には入ってくるかも」とのこと)。胡瓜の皮のごま油和えも苦みが利いてておいしかった。
さあ、ラガービールの苦みはどう変わる……?
飯塚の言うとおり。ビールがとまらなくて、つい2缶飲んでしまった。
飯塚は着々と酒の経験値を積んでいく。でも思い出してほしい。きっかけは何だった?
小笠原さんと楽しく飲んで食べる……そんな日は訪れるのだろうか。それに、ひやおろしも気になるよね。君を知ることは、酒を知ること。酒の道はまだまだ続く。
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(レビュアー:花森リド)
- げこの酒道 1
- 著者:二宮ゆうこ
- 発売日:2023年08月
- 発行所:講談社
- 価格:759円(税込)
- ISBNコード:9784065325612
※本記事は、講談社コミックプラスに2023年9月18日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。