「体にいいこと」を知っているのに、なぜ行動に移せないのか? 食事、運動、睡眠––健康のために必要な知識は、すでに世の中にあふれています。それでも生活習慣を変えるのは簡単ではありません。
本書は、リウマチ・膠原病内科医として20年以上、診療の現場で患者と向き合ってきた著者が、体の中で起きていることと、その「知識」を「行動」に変えて「自分の体を守る」を実践するための技術を伝える一冊です。
※本稿は『わかっているのに、なぜ体にいいことが続かないのか』(かんき出版)の一部を再編集したものです
ベジファースト:体内に張る「最強のフィルター」
ここで、本書が提案する「今日からできる一つの習慣」をご紹介します。
食事の最初の一口を野菜にすること。
たったこれだけで、その後の食事があなたの体に与える影響が大きく変わります。
空腹の胃にいきなり白米やパンなどの糖質が入ると、それらはノーガードの腸壁から猛スピードで吸収され、血糖値を急上昇させます。前章で見た血糖スパイク、そして「コゲ(糖化)」が一気に加速する瞬間です。
ところが、最初に野菜を食べると、水溶性の食物繊維が水分を吸ってゲル状になり、糖を包み込んで、腸での吸収に「天然のブレーキ」をかけてくれます。
また、胃から腸への内容物の移動がゆっくりになり、後から入ってくる糖分や脂質の吸収スピードが格段に抑えられることになります。
最初に糖質から食べていた時は血管を攻撃していた糖が、食物繊維のブレーキを通ることで「穏やかなエネルギー」へと姿を変えてくれます。
食べる順番は「野菜・きのこ・海藻(食物繊維)」→「肉・魚・卵・大豆製品(タンパク質)」→「ごはん・パン・麺(炭水化物)」。いわゆる「ベジファースト(カーボラスト)」です。
外食でも、サラダやお味噌汁の具から箸をつけるだけで実践できます。
野菜を最初に食べてブレーキをかけたら、次はその後に続く「炭水化物そのもの」にも、ひと工夫加えてみましょう。同じ一杯のごはんでも、どんな炭水化物を選ぶかで、体への届き方は大きく変わります。
ポイントは、「色」と「形」です。

▶「白いもの」より「茶色いもの」
精製されて真っ白になった食品は、食物繊維という天然の鎧を剥がされた「丸裸」の状態です。たとえば白米は、玄米の外皮(糠)と胚芽を取り除いたもの。この外皮の部分にこそ食物繊維・ビタミンB群・ミネラルが詰まっており、糖の吸収をゆっくりにするフィルターとしても働いています。
白米よりも玄米、白い食パンよりも全粒粉パン、うどんよりもそば。
天然の鎧をまとった「茶色い」ものを選ぶだけで、血糖値の急激な上昇を抑えられます。
▶「崩れたもの」より「元の姿に近いもの」
もう一つの軸は、「形」です。果物を例に考えてみましょう。
まるごとのりんごは嚙み砕くのに時間がかかりますが、りんごジュースは糖がブレーキなしで血管になだれ込みます。
「畑で育ったそのままの姿」に近いものほど、糖の吸収は穏やかになります。
形がそのまま残っている食材は、嚙み砕くのに時間がかかります。その分、胃腸での消化もゆっくり進むため、糖が血液に流れ込むスピードが自然と抑えられるのです。
食物繊維という天然のフィルターも、そのままの姿にこそ豊富に残っています。
▶よく嚙むこと
早食いは血糖値を急上昇させる最も身近な原因です。
まずは「今よりあと10回多く嚙む」ことから始めてみてください。
加えて、食後15~30分以内に10~15分の軽い散歩を挟むと、筋肉が糖を取り込みやすくなり、血糖値の上昇をいっそう抑えられます。食後のちょっとした散歩は、あなたの血管をコゲから守る最も手軽な「処方箋」です。
この「ベジファースト」は、我慢ではありません。
食べる量を減らす必要も、好きなものを諦める必要もありません。
順番を変えるだけでいいのです。
一人の患者さんの話をさせてください。
40代の女性で、関節リウマチの治療で通院されていた方です。体のだるさ、肌荒れ、そして健診で指摘される血糖値の上昇にずっと悩んでいました。
食事の内容を聞くと、栄養バランスに気をつけているつもりだけれど、忙しい朝はパンとコーヒーだけ、昼は麺類を急いでかき込む、という生活。
決して食べすぎているわけではありません。けれど、食事のたびに血糖値が急上昇し、急降下する。あのジェットコースターを一日に何度も繰り返していました。
外来でベジファーストの仕組みを説明しました。食物繊維がゲル状のブレーキになること、血糖スパイクが抑えられればサビとコゲも減ること、腸の善玉菌にもエサが届くこと。
体の中で何が起きるかをイメージしていただいたうえで、「まず朝食のパンの前に、何か一つでも野菜を口にすることから始めてみてください」と提案しました。
朝は忙しくてパン食、という方なら、ミニトマトを数個添えるだけでも立派な一歩です。
お昼にコンビニで買い物をするなら、サラダを一品加えてみてください。
私自身は、毎朝、具だくさんの味噌汁を作っています。玉ねぎと乾燥わかめは常にストックしておき、あとは冷蔵庫にある野菜を何でも放り込む。食べる時は、まず味噌汁の具から箸をつけます。
たったこれだけのことですが、ベジファーストが自然と習慣になりますし、朝一番に温かい汁物で腸を目覚めさせる効果もあります。さらに、発酵食品である味噌は、腸内の善玉菌にとっても嬉しい一杯になります。
数カ月後、その方はこうおっしゃいました。
「先生、朝だけのつもりだったんです。でも不思議なことに、昼も夜もサラダから食べるのが当たり前になって、そうしたら午後のだるさが減って、肌の調子も良くなってきたんです」
血糖値も改善傾向にありました。
変えたのは、食べるものではなく「順番」だけ。それだけで体の中のドラマが変わり、変化を実感したことで自然と行動が広がっていったのです。
これが体内イメージの力です。
迷ったら、まず「食事の最初の一口を野菜にする」、これだけ。
前章で見た血糖スパイク、サビとコゲの加速、脳のハッキング。
あの連鎖の多くにブレーキがかかります 。
『わかっているのに、なぜ体にいいことが続かないのか』

発売日:2026年7月
発行所:かんき出版
定価:1,980円(税込)
ISBN:9784761278823
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「ほんのひとふし」は、話題の書籍から特に関心の高いトピックや、今こそ読みたい一節をピックアップしてご紹介する「ほんのひきだし」の連載企画です。

