「読後、あなたはきっと大切な人に会いたくなる」――。物語の舞台であり著者の出身地でもある千葉を中心に、書店員たちの熱烈な店頭展開で発売早々に重版が決定した『さよならの向う側』。真っ直ぐに命と向き合う「絶対に泣ける小説」の評判は、SNSなどを通して全国へと拡散中です。
マイクロマガジン社の文芸レーベル「ことのは文庫」初の単行本でもある本作。そんな話題作に込められた並々ならぬ想いを、著者の清水晴木さんに語っていただきました。
- さよならの向う側
- 著者:清水晴木
- 発売日:2021年06月
- 発行所:マイクロマガジン社
- 価格:1,650円(税込)
- ISBNコード:9784867161401
STORY
「あなたが、最後に会いたい人は誰ですか」
さよならの向う側と呼ばれる場所にいた男、案内人はそう言った。
人は亡くなった時、最後に一日だけ現世に戻って会いたい人に会える時間が与えられる。
ただし、その中で会える人は、『あなたが死んだことをまだ知らない人だけ』。
人は最後に大切な人に会いに行く。
きっとどんな困難が待っていても、人はそれでも大切な人に会いに行く。
そんな、さまざまな人たちと案内人が織りなす、最後の再会を描いた純度100%の温かい感動の物語。〈マイクロマガジン社 公式サイト『さよならの向う側』より〉
清水晴木
しみず・はるき。千葉県出身。東洋大学社会学部卒業。2011年、函館港イルミナシオン映画祭第15回シナリオ大賞で最終選考に残る。2015年、『海の見える花屋フルールの事件記 秋山瑠璃は恋をしない』(TO文庫)で長編小説デビュー。以来、千葉が舞台の小説を上梓し続ける。著書に『海の見える花屋フルールの事件記 秋山瑠璃は恋を知る』、『緋紗子さんには、9つの秘密がある』、『体育会系探偵部タイタン!』、『星に願いを、君に祈りと傷を』等がある。
思いがけない出会いから始まった勝負作の誕生
――まずは刊行のきっかけからお伺いします。
学生の頃から小説と映画が好きで、最初は脚本家になりたいという夢があり、シナリオセンターに通っていました。ところが大学卒業直後に大きな病気にかかったのです。1年ほど入院して、退院後も2、3年くらいは何もできませんでした。その後、脚本の勉強を再開していた時に小説の話をもらって、デビューにつながりました。
脚本は映画の設計図ともいうべきものですが、小説は自分で完成形を作れるのが魅力でした。いくつかの出版社さんからお声をかけていただいたのですが、たまたま作家の佐藤青南さんとの会に参加させていただき、マイクロマガジン社さんとご縁ができました。
――作家さんの交流会とは意外なつながりですね。
佐藤青南さんには本当によくしていただいています。
この物語を書くいちばんのきっかけは、2年前に祖母が亡くなったことです。とても優しくていい人だったのに、もう会いたくても会えない。そこから、きっとその死を知っている人には会えないというルールがあるのではないかと物語の設定が生まれて、構想が膨らんでいきました。
これまで僕は6作品を出版してきましたが、ジャンルはすべて文庫サイズのライト文芸で、まだ描き足りないと感じていました。このままいい作品ができ上がらなければ、作家を辞めようというくらいの転換期を迎えていたのです。
――決意と覚悟を持って生まれたのがこの作品ですね。
真っ直ぐに命について書こうと思ったのは、自分が大病を経験したこともあります。これまで避けていたのですが、自分にしか書けないテーマだと吹っ切りました。ですからたくさんの読者に届けたい気持ちが強くて、単行本として世に送り出したかったのです。
――文庫と単行本では読者層が違いますよね。
これまで文庫を出してきた中で、「大人向けのテイストの方が合っているのでは」という声を多くいただきました。本作はこれまでの作品よりはやや上の、20代以上の方を意識して書いています。編集の方も最初は文庫のイメージをお持ちでしたが、作品を読んで「これは単行本で勝負しましょう」と後押ししてくださいました。
感動の「向う側」の景色を見せてくれる物語の妙
――タイトルはすぐに決まりましたか。
全5話ある中の第4話が表題作です。これをメインタイトルとしたのは、ほぼ完成してからです。最初から「さよなら」は絶対に入れようと決めて絞った結果、『さよならの向う側』になりました。山口百恵さんの名曲と無意識でつながりました。
――世代を超えた絶妙なタイトルだと思います。奥深い余韻が感じられて、感動だけではない、その「向う側」の景色を見せてくれるという意味合いも伝わります。
亡くなったあとの人の話ですから、やはり「向う側」なのですよね。
いとうあつきさんの装画も素晴らしくて、物語の登場人物たちがすべての再会を終えて、最後に「扉」の前に立った時の景色が描かれています。まさに「向う側」のイメージそのままです。
――「亡くなってから24時間以内」というタイムリミットと、「自分の死を知っている人には会えない」というルールはこの作品の肝ですよね。
ストーリーの中でも書きましたが、亡くなった大切な人には会えないけれども、彼らはきっと見守っていたり助けてくれたりしていると思っています。先ほどもお話ししましたが、私自身、自分を大切にしてくれていた祖母が、今も支えてくれていると感じることがあります。
――亡くなった者たちを案内人が誘うというスタイルも印象的です。
これは読んでのお楽しみですが、ラストシーンに帰結するためにどうしても案内人が必要でしたので、初めから頭に浮かんでいました。
――各話の構成はどのように組み立てられたのですか?
第1話で王道の親子愛を描き、第2話は映画好きである私の父からインスピレーションを得た物語です。第3話以降にもサプライズを用意しています。
――第3話はとりわけ文学性を感じます。第4話のライブシーンもいいですね。
タイトルが曲名ですので、歌の場面を大事にしています。歌詞も埋めこまれているので歌うように楽しんでもらえたらうれしいです。第4話には自分自身の姿も投影しています。
――読みながら強い説得力を感じましたが、それはこの物語に清水さんご自身がいるからですね。地元・千葉が舞台ですし、千葉のソウル・ドリンクであるマックスコーヒーも登場します。清水さんがお好きな夏目漱石も出てきますね。
好きなものや僕の関心事を随所に盛り込んでいます(笑)。
――また、第3話では日常の写真を撮り続けている女の子のシーンが挿入されていて、当たり前の日常を慈しんでいる描写も清水さんのご経験からくるものなのかなと感じました。何より、生きるとは人と関わることなのだと改めて気づかされました。
小説を書くのは孤独な作業です。でも人と関わらなければ生きていけません。亡くなることで人との関係性が失われるのは本当に悲しいこと。自分の死生観から出た答えを物語に書きたかったのです。
書店員からの絶大な支持が売上を押し上げる
――Twitterやホームページで本書に対するコメントや店頭展開を拝見しましたが、この作品を事前にゲラで読んだ書店員からの反響がすごかったようですね。
全国からたくさんの熱いメッセージをいただきました。大きく展開いただいている書店さんでは、完売したり、文芸書ランキングでひと月にわたって1位をキープしたりしています。「2021年上半期の一冊」に選んでくださった書店員さんもいて、本当にありがたいですね。
本書は普段あまり本を読まない人でも読みやすい小説を目指して書きました。たくさんの方に読んでいただいて登場人物に共感してもらい、彼らが読者のみなさんそれぞれの心の中で生き続けてくれたらうれしいです。
これからも映像や音楽にも結びつきやすい、そして何よりも救いのある作品を書き続けたいと思っていますので、ご期待ください。
――それは楽しみです。本日はありがとうございました。
【取材を終えて】
いま巷には「泣ける本」がブームと言ってもよいほど溢れている。しかし、『さよならの向う側』ほど読みながら大きく心が揺さぶられ、人が生き抜いたその先の景色を見せてくれる感動作は稀有である。作家・清水晴木が泣きながら筆をふるい、持てる力のすべてを注ぎ込んだ本作は、2021年に読んでおくべき重要な小説であるとともに、読み継がれるべき感涙本の新たなスタンダードとなるだろう。
▼元書店員であり、「POP王」としても知られる本記事を執筆したブックジャーナリスト・内田剛が作成したPOPがこちら