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11年ぶりの最新作!ウイルスハンター・神原恵弥の暢気な謎解き休暇は、どこにたどり着くのか?|『傾斜のマリア』恩田陸

謎めいた数え唄に隠された真意とは? ウイルスハンター・神原恵弥の心躍る冒険譚

ページを開くとすぐに賑やかなおしゃべりが始まって、「そうそう、この感じ」と嬉しくなってしまう。『傾斜のマリア』は恩田陸が四半世紀以上にわたって書き継いでいる神原恵弥シリーズの最新刊。『ブラック・ベルベット』以来11年ぶりの新作ということになるが、のっけからユーモアと皮肉たっぷりの“恵弥節”が炸裂してタイムラグを感じさせない。

世界をまたにかけて活動する凄腕ウイルスハンターの恵弥が、行く先々で事件に巻き込まれるというのがシリーズの基本パターン。米国資本の大手製薬会社を辞めフリーとなった彼が今回向かったのは、祖母の生まれ故郷である九州のN崎だ。休暇を兼ねての旅の目的は、祖母の遺した数え唄の意味を探ること。その唄には「かたむくマリア」「グラバーさんの コンパス」などの謎めいた言葉がちりばめられ、N崎の伝統的なお菓子であるカスドース、一口香、マルボーロが登場する。この唄で祖母は何を伝えようとしたのか。

旅先に現れた友人・多田がN崎大学の友人を恵弥に紹介したいと言い出して、さらに事態はややこしくなる。N崎大といえば危険性の高いウイルスを扱うBSL(バイオセーフティレベル)4施設が設置された、日本の防疫上重要な場所だ。米国の監視下に置かれている科学者アキコ・スタンバーグの影もちらついて、じわじわとサスペンスの雰囲気も高まるのだが、それでも飄然とした軽みを失わないのがこのシリーズ。グラバー邸や軍艦島などの名所をめぐり、土地の料理や珍しいお菓子に舌つづみを打ちながらの暢気な謎解き休暇は、どこにたどり着くのか誰にも分からない。洒脱な会話と非日常的な時間の流れが実に心地よい、大人ためのトラベルミステリーに仕上がっている。

旅の過程で浮かび上がるのは、日本の数百年の歩みが刻印されたかのようなN市の複雑な歴史だ。謎解きとともにこの街で暮らした人々の素顔が浮かび上がるという展開には、地霊の声なき声に耳を傾けてきた、恩田陸らしさがあふれている。

 

書誌情報

傾斜のマリア
著者:恩田陸
発売日:2026年07月
発行所:双葉社
価格:1,980円(税込)
ISBNコード:9784575249033

 

試し読みと著者インタビューが公開中

双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」にて、『傾斜のマリア』の試し読みと、著者・恩田陸さんのインタビューが公開されています。

▶『傾斜のマリア』の試し読みはこちら

▶著者・恩田陸さんのインタビューはこちら

 

著者プロフィール

恩田陸(おんだ・りく)
1964年宮城県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。91年『六番目の小夜子』が第3回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作に選ばれ、デビュー。2005年『夜のピクニック』で第26回吉川英治文学新人賞と第2回本屋大賞、06年『ユージニア』で第59回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)、07年『中庭の出来事』で第20回山本周五郎賞、17年『蜜蜂と遠雷』で第156回直木賞と第14回本屋大賞を受賞。『鈍色幻視行』『spring』『珈琲怪談』など著書多数。

『小説推理』(双葉社)2026年9月号より転載