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「私…全部知ってるんですよ?」“盗作”漫画家は裁かれる。美しき女編集者の“罠”で――『流されて金字塔』

看板作家の秘密を知る編集者

追い詰められた人間は、どこかしら不合理な行動に走る。逃げ場を見失ってドツボにはまるのだ。

だから、もし誰かを破滅させたいなら、追い詰められて不合理な行動を選ぶことも計画に入れておくといいのかもしれない。とくに後ろめたさを抱えたターゲットなら、こちらがお膳立てさえしておけば、あとは勝手に罠にかかってフラフラと地獄に向かって流されていく。

『流されて金字塔』の主人公“高砂京介”もまた、罠にすっぽりハマり、そのまま背徳まみれの地獄に向かっている。

京介は人気漫画家コンビ“南京”のネーム原作担当。もうすぐ作品が映画化されようとしている。そんな彼の前に現れた新しい担当編集者は……?

流されて金字塔

京介の「秘密」を知っているのだという。京介の半開きの口がマヌケでむなしい(本作は彼の半開きになった口を何度も描く)。

 

盗作で生まれたヒット作

京介は妻の“南”と二人で漫画家・南京として活動している。

流されて金字塔

『台風の瞳』という作品が大ヒット中で、もうすぐ映画化もされるし、メディアにも引っ張りだこ。

流されて金字塔

結婚生活も順調に見えるが、京介はどこか疲れている。同じ悪夢ばかり見ているのだ。

そんなある日、京介たちの担当編集者が替わることになった。後任として現れた新しい編集者を見て京介は絶句する。

流されて金字塔

“赤坂栞”と名乗るこの美しい女は、京介のかつての恋人である“赤坂紡”に瓜二つ。妹? 偶然にしては出来すぎている。

流されて金字塔

やっぱり。栞はわざと京介に近づいたようだ。栞は、前の担当編集者や妻の前ではニコニコと普通だけど、京介と二人きりになると態度を急変させる。

流されて金字塔

紡を連想させるような仕草で京介を揺さぶったあと、コーヒーの角砂糖を京介の口にグイッと押し込む。どうして京介はされるがままなのか。逃げるなり噛むなりすればいいのに。おそらく後ろめたさで身動きがとれなくなっている。

実は京介が原作を描くヒット作『台風の瞳』は盗作であり、本当の原作者は紡なのだ。そして紡はもうこの世にはいない。大きな文学賞を獲るくらいの人気小説家だった紡は、5年前に橋から転落し死んでいる。

流されて金字塔

紡と京介の関係を知る人はいない。そして紡が遺したノートに書かれた『台風の瞳』を自分の作品として世に出していることも、誰も知らない。妻の南だって編集部だって知らない。

そんな京介だけの秘密を、栞は「知っている」と言う。こうして京介が栞の言いなりとなる。

 

打ち合わせという名の「清算」

栞は京介の盗作を世間に告発するでもなく、編集者としてべったり南京に張りつく。非常にイヤな感じなのだ。漫画家と編集者の打ち合わせ風景なのにほぼ拷問。

流されて金字塔

原稿を破いてみたり(恐怖!)、

流されて金字塔

「私の目の前で盗作しながら描いてみろ」と迫り、描いたら描いたで唐突にビンタ。理不尽すぎる。さらに別の角度からも栞は迫ってくる。

流されて金字塔

栞がほのめかす「清算」とはこういうことだ。

流されて金字塔

姉(紬)を裏切ったのだから、京介は妻を裏切るべきであり、その相手は栞が務めるらしい。むちゃくちゃ。いくら盗作の弱みを握られているとはいえ、「ダメだ」と思いつつ全身で反応してしまう京介が哀れ。

しかも栞は京介の担当編集者であると同時に、妻の担当編集者でもあるのだ。

流されて金字塔

こんなに焦りまくる京介を見ても何も疑わない南は、だいぶ京介に惚れてるんだろうな。

ここまで理不尽なことが重なると、もう何もかもが信じられなくなる。たとえば編集部に届いた「南京はパクリ作家」という怪文書の送り主は誰?

流されて金字塔

京介は「栞にちがいない」と断定していたが、読んでるこっちは栞の底知れなさと紡の怪死にビビりすぎて「なんか裏があるんじゃないの……?」と思ってしまう。しかし前の担当編集者もこんな手紙をわざわざ本人に見せないでよ!

こうして京介は栞の用意した罠に順調にハマっていく。妻との食事の時間を気にしつつ京都行きの新幹線に飛び乗り、タクシーのドアに不格好に挟まれ、パンパンに膨らんだ下半身を「馬鹿野郎!」とグーで殴る。ありとあらゆる後ろめたさで首を絞められているようだ。

流されて金字塔

盗作を世間にバラされたくなかったら、何をしろというんですか! もう逃げ場なし。

(レビュアー:花森リド)

流されて金字塔 1
著者:稲妻桂
発売日:2023年08月
発行所:講談社
価格:759円(税込)
ISBNコード:9784065327166

※本記事は、講談社コミックプラスに2023年9月2日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。