中山夏美
山形市出身在住。2020年に東京からUターン。山と芸能を得意とするライター。小学1年生のときに『りぼん』(集英社)に出会い、漫画にハマる。10代は少女漫画ばかり読んでいたため、人生で大事なことの大半は矢沢あい先生といくえみ綾先生に教えてもらった。現在は少年、青年、女性、BLまで、ジャンル問わず読んでいる。電子書籍では買わず、すべてコミックで買う派。
『SPY×FAMILY』(集英社)といえば、漫画雑誌アプリ『少年ジャンプ+』で史上初の大ヒット作品と言われ、閲覧数、コメント数、どちらとも最高記録を次々と更新しています。2022年にはTVアニメ化され、今年はミュージカル上演もされましたね。現在、第11巻まで発売されているコミックの累計発行部数は3,000万部超えを記録しています。
なぜ、そこまでの人気を獲得しているのか…? 私はその理由を「家族愛の描き方」だと思っています。しかし主要キャラ3人で構成される「家族」は、本物ではありません。主人公の敏腕スパイ・黄昏が任務遂行のために集めた仮の家族。血の繋がりもなければ、愛もない。それなのに家族愛とはチグハグに感じるかもしれませんが、娘役を演じているアーニャの存在によって、私はそこに強烈な家族愛を感じてしまうのです。
『SPY×FAMILY』遠藤達哉
ちょっとおバカなアーニャがかわいすぎる
『SPY×FAMILY』を読んで、まず思ったのは「アーニャがかわいすぎるだろうー!」でした(笑)。孤児院で育ったアーニャは6歳設定ですが、実年齢はそれよりちょっと低い印象。私にはもうすぐ3歳になる娘がおり、アーニャの言動が娘とかぶってしまいます。それもあってアーニャがかわいく見えて仕方ありません。
エスパーのくせにおバカキャラなので、学校生活でハプニングや事件を起こしがち。心を読めているはずなのに、なぜそんなに失敗するのか(笑)。たまにファインプレーなときもありますが、そのときには娘の成功を祝う気持ちぐらい微笑ましくなります。アーニャこそが、『SPY×FAMILY』の魅力と言えるぐらい大好きなキャラなのです。
アーニャのドキっとする大人な発言にも胸が熱くなってしまいます。例えば、黄昏とヨルが少し不穏な空気を漂わせていた日には「ちちとはは なかよくしないとだめ」と突然言ってみたり。「“にんむ”がしっぱいになっちゃったら、いっしょがおわっちゃう」から、一生懸命苦手な勉強を頑張ってみたり。子どもというのは、ときに妙な発言をしますよね。的を射ていないようで、こちらが子どもには隠している部分を見抜かれたような。そういったアーニャの発言に、娘を重ねてしまっています。
赤の他人同士で構成された黄昏たち家族は、互いの詳しい素性を隠しています。黄昏は妻役のヨル・ブライアが殺し屋であること、娘役のアーニャがエスパーであることに気づいていませんし、ヨルも黄昏がスパイであること、そしてアーニャと黄昏が本当の父娘ではないことすら知りません。黄昏も敏腕スパイなら気づけよって思いますが(笑)。
その中でアーニャだけは、黄昏とヨルの素性を知っています。なぜなら彼女はエスパーだからです。黄昏が任務の日も、ヨルが殺しをしてきた日も心が読めるアーニャは気づいています。しかし、スパイアニメが好きなアーニャはこの状況が怖いなど一切なし。むしろ大興奮しています。「(スパイの)ちちと(殺し屋の)ははと一緒ならワクワクに出会えそう!」と期待しているほどです。どんなシリアスな場面でも、アーニャがいるおかげで笑えるシーンに変わる。アーニャの存在は偉大です。
偽の家族が紡ぐ“かりそめの平穏”
「命が惜しかったら誰も信用するな」。スパイである黄昏の鉄則です。この家族での暮らしはあくまで任務遂行のためであり、成功したらすぐにでも解消する仮の姿。しかし、話が進むほどに黄昏の中で“父親”としてアーニャを守りたい気持ち、“夫”としてヨルを大事にしたい気持ち、“家族”として、この生活を保っていきたい気持ちが芽生えているのを感じます。
最新刊ではアーニャが学校行事中にバスジャックに遭う事件が発生します。身分を隠しながらも、真っ先に救出に向かう黄昏。任務遂行のためには、アーニャは必要な存在ではあります。それでも他の任務を差し置いても向かう姿は、まるで本物の父親です。
本音を隠し、本性を隠し、かりそめの平穏であればいい。それが黄昏の家族像。これから先、その気持ちは少しずつ変化していくのではないか、そんな風に私は思っています。でもそのときに、任務が無事終わっていたら…。この家族が終わってしまうのを想像するのは、今からとても切ないです。
今後、アーニャが物語のカギになる!?
エスパーであるアーニャは、とある組織の実験によって生み出された過去があります。コードネームは「被検体007」。そこから逃亡して孤児院にいたのです。この謎が解き明かされるとき、3人の関係は大きく変わるだろうと予想します。
ストーリーの中には、アーニャの正体について伏線が散りばめられています。今後それをどう回収していくのか楽しみです! 娘と重ねてしまっている私としては、悲しい過去ではありませんように…と願っています。
※本記事は「八文字屋ONLINE」に2023年8月3日に掲載されたものです。
※記事の内容は、執筆時点のものです。