スマホサイズの小説がもたらす臨場感と、抗いがたい「エゴサ」の魔力
Googleの検索欄に自分の名前を入力したことはあるだろうか? おそらく一定数はいると思う。姓名判断サイトしか出てこなかったり、赤の他人と名前が被っていたりするものの、自分が過去に経験した出来事の痕跡が表示されるひともきっといる。それを目にして、懐かしさや恥ずかしさ、あるいは誇らしさを抱くわけだが――どうして私たちは、自分の名前でついつい検索(サーチ)したくなってしまうのだろう?
その心理に迫った作品こそが、『エゴサ厳禁』だ。物語は大学生の深山遥香が、探偵の久我原廉に「アイコレクター」の正体を暴くよう依頼するところからはじまる。「アイコレクター」は犯罪者の目玉をくりぬいて惨殺する事件を繰り返し起こしている殺人犯で、以前に収賄容疑で逮捕されていた遥香の父親も、被害者のひとり。そして遥香の自宅にも、犯人からと思しき脅迫めいたポストカードが送られてきたのだった。
本作は著者の過去作『スワイプ厳禁』と同様、スマホを模したサイズの書籍となっており、遥香の手にするスマホの画面が読者にも共有される。そのおかげで「アイコレクタ―」の正体を追う捜査パートは、“まるで自分が遥香になったかのように”臨場感を味わえる。遥香のスマホカメラが映している光景に違和感がないか、小説を読みながら自ら捜査する感覚は新鮮だ。
そして本作特有の没入感は、遥香になりすぎるあまり、自分を見失うような瞬間すら与える――そんなとき、自分を見つけるためのいい方法がある。それこそが、エゴサだ。自分の名前で検索して過去の痕跡が出てきたとき、誰かが自分に言及していたとき、自分はこの世界に存在しているのだと確認できる。それはときに安心にもつながるだろう。自分の名前の検索エゴサは、自らの生を証明し、肯定する手段でもあるのだ。
しかし、エゴサは反応欲しさによる自己主張にも結びつき、かえって自分を見失うことにもなる。あなたも自分を見失わないよう慎重になりながら、衝撃的な本作の結末を見届けてほしい。
書誌情報
- エゴサ厳禁
- 著者:知念実希人
- 発売日:2026年05月
- 発行所:双葉社
- 価格:770円(税込)
- ISBNコード:9784575248913
■その他の「厳禁」シリーズ
- スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ
- 著者:知念実希人
- 発売日:2025年08月
- 発行所:双葉社
- 価格:499円(税込)
- ISBNコード:9784575248333
- 閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書
- 著者:知念実希人
- 発売日:2025年09月
- 発行所:双葉社
- 価格:1,760円(税込)
- ISBNコード:9784575248401
著者プロフィール
知念実希人(ちねん・みきと)
1978年沖縄県生まれ。東京慈恵会医科大学卒、日本内科学会認定医。2011年、第4回島田荘司選ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を『レゾン・デートル』で受賞。2012年、同作を改題した『誰がための刃』で作家デビュー。「天久鷹央」シリーズが人気を博し、2015年『仮面病棟』が啓文堂文庫大賞を受賞、ベストセラーに。『崩れる脳を抱きしめて』『ひとつむぎの手』『ムゲンのi』『硝子の塔の殺人』で本屋大賞ノミネート。今もっとも多くの読者に支持される、最注目のミステリー作家。



