無役の御家人にして、剣の達人。気ままに生きる雲井十四郎が、恐るべき敵に立ち向かう
江戸川乱歩賞を受賞しミステリー作家としてデビューした鳥羽亮は、その後、時代小説家に転身し、数々のシリーズを上梓している。その作品群の中から、全五巻の「浮雲十四郎斬日記」シリーズが、新装版として復刊されることになった。『金尽剣法』は、その第一弾だ。剣豪小説を得意とする作者らしく、本書も迫真のチャンバラを堪能できるのである。
雲井十四郎は、無役の貧乏御家人だ。5年前に父が亡くなり、母親のたつと、妹の菊江と暮らしている。馬面で茫洋とした風貌と、勝手気ままな生き方から“浮雲”と呼ぶ者もいる。とはいえ、金がなければ暮らしが成り立たぬ。剣の達人である十四郎は、直心影流の金子道場に頼まれ、道場破りを撃退。さらに道場主経由で、廻船問屋「辰巳屋」の主の護衛を紹介される。「辰巳屋」は江戸を騒がせる辻斬りに襲われることを懸念していたのだ。すでに雇われている金子道場の坂上と共に、護衛をしていた十四郎は、2人組の辻斬りに襲撃される。運よく退けたが、相手は凄腕である。
一方、かつて十四郎と剣の同門だった、南町奉行所定廻り同心の樹陽一郎は、商家に押し入った六人の盗賊を追っていた。殺しも厭わない凶賊だ。その斬り口が、さらに続いた辻斬りの斬り口と同じようだ。盗賊の中に辻斬りがいるのか。錯綜する事件に巻き込まれた十四郎は、恐るべき敵に立ち向かう。
早い段階で辻斬りのひとりの視点が入り、その目的や、盗賊との関係が明らかにされる。一方で、陽一郎や手下の岡っ引き、そして十四郎の探索が描かれる。道場のラインから辻斬りの正体をつかもうとする十四郎の動きは、いかにも鳥羽作品の主人公らしい。捕物帳のテイストも、本書の魅力になっている。
しかし一番の読みどころは、やはりチャンバラである。十四郎たちと辻斬りたちの斬り合いは複数回あるが、どれも凄い迫力。自らの剣道の体験を活かしたチャンバラ・シーンは、きわめて視覚的であり、読んでいて興奮してしまう。そして金目当ての仕事が、いつの間にか命懸けになっても、果敢に騒動の渦中に身を投じる、十四郎が恰好いい。鳥羽流チャンバラ・ヒーローの活躍が、大いに堪能できるのだ。
書誌情報
- 金尽剣法 新装版
- 著者:鳥羽亮
- 発売日:2026年05月
- 発行所:双葉社
- 価格:836円(税込)
- ISBNコード:9784575672831
著者プロフィール
鳥羽亮(とば・りょう)
1946年埼玉県生まれ。埼玉大学教育学部卒業。1990年『剣の道殺人事件』で第36回江戸川乱歩賞を受賞。自らの剣道体験をもとに、「柳生十兵衛武芸録」「介錯人・野晒唐十郎」「はぐれ長屋の用心棒」などのシリーズで、剣豪小説の第一人者となる。『覇剣 武蔵と柳生兵庫助』『十三人の戦鬼』『剣豪たちの関ヶ原』『江戸の風花』『上意討ち始末』『剣客春秋親子草 恋しのぶ』『荒海を渡る鉄の舟』など、著作は300冊を超える。
双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」2026年5月17日公開記事より転載
