組織やチーム、そこで働く人たちを長らく悩ませてきた、しかし、名前がないが故に長らく放置され続けた違和感の正体、それがブリリアント・ジャークです。
すなわち、ブリリアント・ジャークとは、「仕事の能力は高く優秀(Brilliant)だが、協調性がなく周囲に悪影響を及ぼす嫌な人(Jerk)」です。
例えば、過去の実績を「免罪符」に、職場の空気を支配するリーダーであったり、タイパを「絶対正義」として、周囲のペースを否定するルーキー。さらには、仕事を「人質」に、やりたい放題のベテラン――。
ここでは、6つのパターンに分類されるブリリアント・ジャークのうち、チームや組織を蝕んでいる3つの実例をご紹介します。

※本稿は、三笠書房より6月23日に刊行された『ブリリアント・ジャーク 静かにチームを壊す人たち』を再編集したものです
王様タイプ:支配で自尊心を保つマウンティング部門長〈成長期のベンチャーIT企業〉
A社は創業10年目の新興IT企業。社員数は200名を超える、伸び盛りのベンチャー企業である。採用にも意欲的で、ここ数年で社員数も急激に増えてきた。
ところが最近になり、技術部門を中心に短期間で離職する人もまた増加傾向にある。2年前に中途で入社した二川厚も、そのモヤモヤを抱えている一人だ。
なぜ、短期の離職が増えているのか? それは本部長の東郷弘道の振る舞いによるところが大きいと、二川は捉えていた。
東郷は1年前に技術部門の本部長に着任した。突出した技術力と、会社の売上に対する貢献が認められてのことだ。東郷は創業間もない頃から参画しているメンバーの一人でもあり、社長や担当役員と「友情」ともとれる絆で結ばれている。
東郷のアプリケーション設計能力には目を見張るものがあり、若手技術者からもカリスマ的存在と崇められている。
カリスマ的存在の本部長だが、目に余る言動も
「東郷さんのようなITエンジニアになりたい」
そのような思いを持って、A社に入社した技術者も少なからずいる。ところが最近、とりわけ本部長に就任してからの東郷の言動や行動が目に余るようになった。
・口を開けばマウンティングする
・メンバーを決して褒めない
・必要以上に細かく口を出してくる
・自分の不備や非を認めようとしない
・自分の知らない分野を軽視する
社内のミーティングでも、東郷は口を開けばマウンティングしかしない。日常業務においても、挨拶をされても無視する。メンバーが報告に行ってもパソコンの画面から目を離さず露骨なため息をつき、いちいち皮肉や嫌味をつけて返す。

チャットでは、忙しい立場もあってか普段は何も言わないが、メンバーの足りないところ、気に入らないところを批判・指摘する時だけ登場し、日報にすら厳しいコメントを浴びせる(よって皆、日報にも無難なことしか書かなくなった)。
本部長になる以前からも、その気はあったが、ここ最近は特にひどい。特に自分が「弱いもの」認定した技術者に対して、しつこく厳しく接する傾向が見られる。標的にされた人は本当にしんどそうである。東郷いわく「指導のつもり」のようだ。
褒めない、謝らない、評価しないの三拍子?
一方で、メンバーのよい行動や取り組みに対しては一切褒めない。まるで「褒めたら死ぬ病」にでもかかっているかの如し。東郷はあくまでマウンティングする時だけ登場するキャラなのである。
また、東郷は突然、リーダーやメンバーのやり取りに割り込んできて細かな指示をすることもある。いわゆる「マイクロマネジメント」である。自分が気になりだすと歯止めがかからないタイプなのか、技術へのこだわりが強すぎるからなのか。リーダーもメンバーも、たびたび委縮してしまう。本部長がミドルマネージャーやリーダーをすっ飛ばして、直接細かな指導をするのはいかがなものか。
メンバーに厳しく接する割に、東郷は自分の不備や非については認めようとしない。まるで「謝ったら死ぬ病」にかかっているかの如し。
東郷は特定の技術力こそ高いものの、分野によるばらつきもある。過去の職歴からも経験に偏りがあるようだ。具体的には、アプリケーション設計や構築は得意でコーディングの能力も高い。一方で、ネットワークやデータベースなどのインフラと呼ばれる基盤については、今まで経験してこなかったのか、弱い。それは、インフラ業務の経験が長い二川の目から見ても明らかだった。
社内ミーティングで、メンバーが構築中のITシステムのインフラ面の不備を指摘したり、改善のための提案をしたりしても、東郷に軽くあしらわれ、評価もされない。どうやら東郷は、自分の得意領域以外については興味も、学ぶ気もないようだ。
これらの態度をとるものだから、東郷にもの申す人も限られており、旧知の仲の人しかものを言えない。下手に絡まれても面倒なだけだし、相当に理論武装しないと開き直られ攻撃されるので、誰も提言しようともしない。
そのような状況のため、A社の技術部門は、業績こそ伸びてはいるものの、人を「採っては辞められ、採っては辞められ」のループに陥り始めている。ついにはメンタル不調者も出始めた。
しかし、上層部は東郷の問題に気づいていない様子だ。社長も役員も、退職やメンタル不調について、「組織に合わない本人の問題」で片づけようとしている。
A社では、管理職登用の試験や面接なども行われていない。短期の成果を出し続けた人、上に気に入られた人だけが昇格し、権限を持つ。
管理職に対し、マネジメントの基礎力はもとより、ハラスメント研修やコンプライアンス研修、対話能力向上などのトレーニングが行われている様子もない。そもそも人事部門は採用活動しかしておらず、人の育成や評価に力を入れている様子もない。
「自分も、もってあと1年かな……」
二川は手元のスマートフォンに映し出された転職サイトの画面を虚な目で眺めた。
テリトリー防衛タイプ:仕事を人質に組織をハックする課長〈中堅食品会社〉
B食品は、創業70年を越える地域の老舗の惣菜製造会社。社員数は150名。パートタイマーやアルバイトスタッフを含めると、300名を超える中堅企業である。全国に販路を持ち、商品はスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの小売店でも展開、一定の知名度と地位を確立している。
そのB食品の北陸工場である日、問題が発生した。生産課の課長、石巻猛のパワーハラスメント疑惑である。石巻は勤続30年目のベテランであり、入社以来一貫して北陸工場の生産課に所属、会社の成長を支えてきた。
その自負からなのか、他の社員やスタッフへの当たりが強すぎるところがあり、以前から部長をはじめとする周りの管理職も、なんとなく気にはしていた。
勤続30年のベテラン課長が中途入社の社員にパワハラ
事の発端は、昨年に中途採用で入社した小池優子に対する接し方である。
石巻による強い𠮟責は日常茶飯事で、挙句の果てには「気が利かない」「この仕事、向いてないんじゃない?」など、人格批判ともとられかねない発言をも繰り返す始末。小池はついに泣きだして、職場を飛び出してしまった。
担当役員である東田啓一は、慌てて北陸工場に飛び、生産課と関連部署の関係者に聞き取りを行った。その結果、次のような現場の声を聞くことができた。
・小池の素行には特段問題は感じられない。むしろ、中途採用で慣れない部分も多いのによく頑張っている
・ベテランの石巻から見れば、小池の不慣れな部分が気になるのは理解できる
とにかく、このまま二人を同じ課に置いておくわけにはいくまい。そう思った東田は、石巻か小池のいずれかを別の課に異動させることで、取り急ぎ火消しを試みた。もちろん、パワーハラスメントが事実であれば、石巻にも相応の処分を下す必要がある。
「至急、経営会議で今回の件を議論し、方針は1週間後に皆さんに示します」
直後、生産課のスタッフからは、次のような声が上がった。
「小池さんがかわいそう。小池さんが異動になるのは納得いきません」
「石巻課長を守って小池さんが異動させられるのであれば、私、この会社辞めます」

現場、特にスタッフからは、小池を擁護する声のほうが大きかった。小池は、確かに仕事を覚えるのに時間がかかるところはあるものの、人柄もよく、周りから好かれていたようだ。彼女自身も生産課で引き続き仕事を続けたいと思っている。
そうなれば、石巻を異動および懲戒処分とするのが妥当……と言いたいところだが、そう即決できない事業がB食品にはあった。
石巻は、北陸工場における原材料の発注業務を一手に引き受けていた。専用端末のアクセス権はもちろん、発注システムの操作方法もノウハウも、すべて石巻が掌握している。いわば「ひとり発注担当者」状態である。
本社にいる東田はおろか、周りのスタッフも誰も発注作業ができない。石巻が生産課から異動したり、ましてや辞められたりしたら生産が止まる。
頑強で、滅多に仕事を休むことがない石巻。近年は、世の中の働き方改革の潮流もあり、「それでいいのか」と疑問視する声もあったが、会社も石巻の、ある意味「善意」に甘えてしまっていた。それが裏目に出た。
役員の判断はパワハラを受けた社員の異動!?そして事件が……
役員一同、議論を重ね、悩みに悩んだ結果、出した結論は次の通りだ。
「小池社員を管理課に異動とする」
東田としても苦渋の決断だった。しかし、ここで生産を止めるわけにも、売上を落とすわけにもいかない。生産が止まれば、小売店や顧客からのブランドイメージも下がるであろう。
東田は、地域の懇意にしている経営者仲間にもそっと相談してみたところ、「石巻課長を処罰するべきだ」「一時的に売上を落としてでも、抜本的な改善をすべきだ」「そもそも仕事の仕方そのものを変えるべきだ」など、至極もっともな意見ももらってはいた。
とはいえ、今すぐどうすることもできない。会社は売上確保を優先した。
その負の影響は、間もなく北陸工場に現れた。会社の処遇に納得いかず、辞める社員やパートタイマーが出始めたのだ。それでも、生産はなんとか止まらず、売上を落とすこともなく、会社としては難を乗り切った。
ところが、その2カ月後――次の見出しの記事が、新聞紙面やニュースを騒がせることとなった。
「B食品、総菜パック商品に異物混入」
件のパワハラ騒動との因果関係は不明である。
暴走エースタイプ:優秀すぎる若手社員〈中堅人材開発企業〉
Eエデュケーションズは、人材開発サービスを提供するベンチャー企業である。
AIなどのテクノロジーを駆使した教育サービスがヒットし、ここ数年で急成長。社員数も100名を超えた。
社長をはじめ、経営陣も平均年齢35歳と若く、活気のある会社だ。メディアの取材を受けることも多く、その効果もあってか、新卒・中途採用ともに順調である。
野依さやかは、3年前に中途で入社した中堅社員の一人である。プロモーション部に所属し、Eエデュケーションズの商材のPRはもちろん、顧客や見込顧客とのデジタルとアナログそれぞれの接点を駆使した関係構築や、マーケティングなども手掛けている。前職で出産・育児を経ており、Eエデュケーションズには時短勤務で参画している。
そんな野依は最近、あることが気になっていた。それは、入社2年目の岩屋翔の態度である。岩屋は新卒で入社した当初から素直で、仕事の取りかかりもスピードも速く、かつ知識や技術も着々と身につけた。いわゆる「シゴデキ」の新入社員として周りの人たちからも注目されていた。
「シゴデキ」新入社員が周りに牙をむく
ところが半年くらい前からか、彼の行動や言動の端々に「キツさ」を感じるようになった。まずもって、会社や部署が示す方向性に合わない(と岩屋が判断した)人に対する当たりがキツい。
たとえば、仕事のスピード。会社は急成長を掲げ、部署もスピード感あるサービス提供を年度の目標にも掲げている。そこまではいい。しかし岩屋は、仕事のスピードや業務の習熟が遅いと判断した人に対して、容赦ない態度をとるようになってきたのだ。
野依もつい先週、岩屋から「野依さん、なんでその対応にそんなに時間かかるんですか?」と言われたところである。先月に中途採用で入社したばかりのスタッフに対しても、岩屋はそのような心無い言葉を浴びせていた。
また、他人の力を借りることをよしとしない。
岩屋は頑張り屋で、自助努力で知識や技術を身につけてきた。野依もその姿勢は素晴らしいと思うのだが、彼は他者に助けを求めることを嫌う。とにかく自分でやろうとする。さらには、他のメンバーがマネージャーやチームメンバーの助けを借りて答えを出すことは、岩屋の「美学」に反し、耐えられないようだ。

新卒・中途にかかわらず、入社して日の浅いメンバーは周りを頼りたくなるシーンも多い。ベテランであっても、想定外のトラブルや突発的な仕事で、誰かに相談したり、代わりをお願いしたりしたくなることだってある。野依もまた、時短勤務で、仕事に注げる時間にも制約があるため、仕事量を調整してもらったり、誰かに仕事を引き継いだりと、やりくりする必要がある。
Eエデュケーションズは、もはや創業間もないスタートアップ企業ではない。社員数が100名を超える企業だ。
100名ともなると、さまざまなコンディション、さまざまなライフステージのメンバーがいる。創業メンバーや岩屋のように、仕事に全振りで走り切れる人たちだけが集まっているわけではない。チームプレーによる助け合いも不可欠なのだ。
同僚へのキツイ振る舞い!上司は個性として認める!?
ところが、岩屋は助けを求め合う人たちに対して、冷ややかな視線を送る。
「助けてもらうなんて、プロとして失格」
「自分一人で仕事を完結できない人は、評価できない」
岩屋のこれらの発言を、野依も他のメンバーも耳にした。これでは、助け合いが生まれにくい。
そして、そのモヤモヤを抱えているのは野依だけではないようだ。ことあるごとに、他のメンバーから「最近、岩屋くん感じ悪いよね」「岩屋さん、天狗になっちゃってない?」「私、岩屋さんと一緒に働くの無理」などの不満の声も聞く。
周りのメンバーからは距離を置かれる岩屋だが、上にはウケがいい。
マネージャーの高師優斗とも、岩屋の「シゴデキ」ぶりは気に入っている様子であり、「自律したホープ」と称賛している。どうやら岩屋を次のマネージャー候補の一人として考えているらしい。そういえば、高師も個人プレーで出世してきたタイプだ。
高師も岩屋のキツい振る舞いを多少は知ってはいるものの、問題視はしていない。「岩屋は尖っているところはあるけれども、それはそれで個性としていいんじゃないの?」
このように流してしまう。挙句、「野依さんも、岩屋より何歳も年上で人生の先輩なのだから、大人の包容力で若手を受け止めてやってくださいよ」とまで言われた。
もし仮に、岩屋がマネージャーに登用されたら、プロモーション部のカルチャーはいったいどうなってしまうのだろうか。野依は少し先の未来が恐ろしくなった。
『ブリリアント・ジャーク 静かにチームを壊す人たち』

発売日:2026年6月23日
発行所:三笠書房
定価:2,090円(税込)
ISBN:9784837941033
「ほんのひとふし」とは
「ほんのひとふし」は、話題の書籍から特に関心の高いトピックや、今こそ読みたい一節をピックアップしてご紹介する「ほんのひきだし」の連載企画です。

