山田が死んだ――。

その事実を受け入れられないまま、お通夜のような空気に包まれる男子高校2年E組。そんな教室に、突如として響き渡る校内スピーカーからの声。
それは、死んだはずの山田の声でした。

この日から、山田と2年E組による“秘密の教室生活”が始まります。
本作は、2025年本屋大賞にノミネートされた金子玲介氏による同名小説のコミカライズ。『死んだ山田と教室』、『死んだ石井の大群』、『死んだ木村を上演』は「死んだ三部作」と呼ばれており、そのコミカライズ第1巻が2026年4月23日に同時発売されました。
“山田がいた教室”ではなく、“山田がいる教室”
タイトルだけを見ると、ミステリーやホラーを想像するかもしれません。ですが、本作の魅力は“怖さ”よりも、山田という存在が教室に残し続ける熱量にあります。
派手な髪色に、誰とでもすぐ打ち解ける明るい性格。山田は2年E組の中心人物でした。けれど彼の魅力は、その陽キャっぷりだけではありません。
実は誰よりもクラスのみんなを見ていて、誰よりも2年E組のことを理解している。そんな山田の人柄がよくわかるのが、第1話で描かれる「最強の席順」です。

クラスメイト一人ひとりの性格や距離感、日々の行動パターンだけでなく、本人が周りに公表してなかった事実まで見抜いた上で席順を決めていく山田。
なぜこの並びなのか――その理由が語られた瞬間、沈み切っていた教室に少しずつ笑顔が戻っていきます。

読者もきっと、このあたりで気づくはずです。
ああ、山田って、本当にこのクラスが好きだったんだな、と。
笑っているのに、ずっと切ない
この作品がすごいのは、“死”を真正面から悲劇として描きすぎないところです。
クラスメイトたちは今日もくだらないことを言うし、山田もいつも通りツッコミを入れる。一見すると、以前と変わらない男子高校生たちの日常が続いているようにも見えます。
でも、ふとした瞬間に思い出してしまう。
山田は、もうそこにはいない。
聞こえてくるのは“声だけ”なのだと。

その事実が、じわじわと胸に染みてきます。
泣いて、叫んで、立ち直っていく――そんな分かりやすい物語ではない。
むしろ彼らは、いつも通りバカをやって、笑って、山田と話し続ける。だからこそ逆に、「もう触れられない存在なんだ」という現実が静かに刺さってくるのです。
それでも、夕焼けが見えないなら誰かが言葉で描写すればいい。声しか届かないなら、その声を中心にまた教室を回していけばいい。

“山田がいない日常”ではなく、“山田がいる今の日常”へと少しずつアップデートしていく2年E組の姿が、とても眩しく映るのです。

35人全員がちゃんと“いる”教室
そして、コミカライズを担当するのべつけい先生の力も圧巻です。
35人いる2年E組の生徒たちをしっかり描き分け、それぞれの空気感や距離感まで自然に伝わってくる。“教室”という空間そのものが、生きているんです。
特に表情描写は見事で、ふざけて笑っている顔の奥にある寂しさや、山田の声を聞いた瞬間の揺れまで、漫画だからこそダイレクトに胸へ届いてきます。

すでに小説版を読んで結末を知っている方も多いと思います。
それでも、ぜひ漫画版のペースで追いかけてほしい。彼らの間や沈黙、教室に流れる空気は、“絵”になることでまた違った切なさを帯びているからです。
“喪失”の中で続いていく青春
なぜ山田は、声だけの存在として教室へ戻ってきたのか。
そして、2年E組の青春はこの先どこへ向かっていくのか。
笑えるのに、ずっと切ない。
青春なのに、“死”が静かに居座り続けている。
『死んだ山田と教室』は、そんな不思議な読後感を残す、“喪失”から始まる青春譚です。
*
(レビュアー:Micha)
- 死んだ山田と教室 1
- 著者:のべつけい 金子玲介
- 発売日:2026年04月
- 発行所:講談社
- 価格:792円(税込)
- ISBNコード:9784065434789
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※本記事は、講談社|今日のおすすめ(コミック)に2026年5月29日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。

