ほどけていくのは、想いか、それとも関係か
「ほどける」という言葉に、どんなイメージを持ちますか。
結ばれていたものが、静かにゆるんでいく。
固く守っていたものが、少しずつ揺らいでいく。
『きみにほどけて春嵐』というタイトルを見たとき、この“ほどけて”という響きが強く心に残りました。
それはきっと、誰かに出会うことで、これまでの自分ではいられなくなる瞬間のこと。
けれどこの物語でほどけていくのは、何かを手放すことではありません。
変わらないはずの想いの中に、もうひとつの感情が入り込んでくる。
その“揺らぎ”が、静かにほどけていく。
そんな瞬間を描いた、昭和のピュアラブストーリーです。
“弟のような存在”が、恋になるとき
つゆ子は、気立てがよく美人で優秀と評判の老舗呉服店の一人娘。身体が弱く、両親にたくさん心配をかけてきたことから、家業を継ぎ、恩返しをすることを夢に奮闘しています。

ある日、幼い頃に丁稚奉公に来て弟のように可愛がっていた明士(あきひと)が、進学のためつゆ子の家に下宿することに。

成長し、美しい青年となった明士に、変わらず「あきちゃん」と弟のように接するつゆ子。
しかし明士はどこかそっけない……。

あんなにも「つゆ姉」と慕ってくれていた、あの可愛いあきちゃんは一体どこに!?
しかも「姉だと思ったことは一度だってありません」と、突き放すような一言まで。

言葉通りに受け取って落ち込むつゆ子に、「違う、ちがうのよ、つゆ子───!」と、なぜか読者のこちらが必死になってしまうのです。
変わらない想いと、変わってしまう感情
家業を継ぎたいという想いは届かず、両親は「嫁ぎ先で不自由なく幸せに暮らしてほしい」と縁談を用意します。
その気持ちも理解できるからこそ、つゆ子は葛藤していく。
そんな中、少し焦った明士が突然の告白。
思わず本心がこぼれてしまった明士のイケメンっぷりと、照れ隠しの可愛さが、年下男子好きの心を一気に奪います。




“弟のような存在”として見ていた相手が、ひとりの男性として迫ってくるこの瞬間の破壊力は抜群です。
大人の余裕か、年下の一途さか
想いを伝えたことで、もはや隠す必要はないとばかりにアプローチを始める明士。
しかし、縁談相手の高柳もまた、包容力のある魅力的な男性。

大人の余裕を見せつけられ、思わずやきもちを焼いたり、「弟」という立場を利用したり……。そんな明士の姿が、なんとも愛おしいのです。

対照的な二人の存在が、つゆ子の心をさらに揺らしていきます。
時代を映す、丁寧な恋のかたち
本作は、『大正カンタレラ~冷たく甘い旦那様~』のきくちくらげ先生による最新作。
舞台は大正から昭和初期へ。女中と旦那の恋から、令嬢と年下学生の恋へと描かれる関係性の変化も見どころです。
和装や和髪が美しいヒロインと、丁寧な時代描写。
その中で描かれる“溺愛”の温度に、今回もたっぷり浸れること間違いありません。
“ほどけた先”にある答え
突如、タイプの異なる二人の男性から求婚されることとなり、戸惑うつゆ子。
女の幸せ、自分の覚悟、そして夢。
変わらない想いと、新たに芽生えた感情のあいだで揺れる彼女は、どんな選択をするのか。
その答えを見届ける日が、待ち遠しくなる一作です。
*
(レビュアー:Micha)
- きみにほどけて春嵐 1
- 著者:きくちくらげ
- 発売日:2026年03月
- 発行所:講談社
- 価格:792円(税込)
- ISBNコード:9784065428979
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※本記事は、講談社|今日のおすすめ(コミック)に2026年4月23日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。

