人と本や本屋さんとをつなぐWEBメディア「ほんのひきだし」

人と本や本屋さんとをつなぐWEBメディア「ほんのひきだし」

  1. HOME
  2. 本と人
  3. ほん
  4. 一見普通のおばあちゃん、実は幸せの仕掛け人? 誰もが抱える切実な悩みを解きほぐす“優しい魔女”の物語|『ひかりの魔女』山本甲士

一見普通のおばあちゃん、実は幸せの仕掛け人? 誰もが抱える切実な悩みを解きほぐす“優しい魔女”の物語|『ひかりの魔女』山本甲士

『ひかりの魔女』山本甲士

静かに綻んでいく、平凡な家族。しかし、一家に引き取られた祖母が、すべてを変える。これは、優しい魔女が人々を幸せにする、ハートフルな物語だ。

なんらかの騒動や事件を経て、自分を変えていく。山本甲士の多くの作品に共通するテーマは、この自己改革といっていいだろう。さらに付け加えれば、作者の存在を強烈に印象づけた『どろ』『かび』『とげ』の3部作の頃は、自己改革がダークな方向で表現されていた。だがその後、しだいに作風がライトなっていき、気持ちのいい自己改革の物語が読めるようになったのだ。もちろん最新刊となる本書も、明るい作品だ。なにしろタイトルからして『ひかりの魔女』なのだから。

父親は薄給のうえ、会社が危ない。母親は、パートの愚痴ばかり。中学生の妹は、荒れている。さらに自分は、大学受験に失敗した浪人生。平凡に見える真崎光一の家は、静かに綻びかけていた。ところが、伯父の急死により、真崎家に祖母が引き取られたことで、すべてが変わっていく。母親から祖母が外出するとき、一緒に付いていくようにいわれた光一は、ばあちゃんが、さまざまな人々に慕われていることを知った。やがて彼は理解する。かつて書道の先生をしていたばあちゃんが、鋭い洞察力と、優しい嘘で、たくさんの生徒の人生を手助けしてきたことを。そして自分たち家族も、ばあちゃんの力により、しだいに明るい方向へと進んでいることを――。

本書の主人公は語り手の真崎光一だが、物語の中心に鎮座しているのは、彼の祖母である。真崎家にやって来たばあちゃんは、本人たちも気づかぬうちに崩壊しかけていた一家を、さりげなく立て直す。その手腕は、まるでマジック。とはいえ特別な方法を使うわけではない。相手の心を読み、負担にならない形で、手を差し伸べる。長い人生で培ったコネを利用する。良いと思ったことは継続する……。ひとつひとつを見れば、現実にあり得そうなことを積み上げ、いつしか奇蹟のような幸せな空間が、ばあちゃんを中心に広がっていくのだ。そして、それを間近で眺めていた光一も、自分の生き方を変えていく。なんとも温かな、自己改革の物語になっているのだ。

さらに作者の小説技巧にも留意したい。特に場所は明記されていないが、真崎家の暮らす街では、暴力団同士の抗争が起こっている。当初は、ストーリーの背景に過ぎなかった抗争だが、これが意外な形で、ばあちゃんと絡んでくるのだ。うーん、この展開は予想できなかった。ばあちゃんの力により、とんでもないところまで飛躍する物語が、愉快痛快すぎるのである。

 

書誌情報

ひかりの魔女
著者:山本甲士
発売日:2016年10月
発行所:双葉社
価格:734円(税込)
ISBNコード:9784575519358

ひかりの魔女 にゅうめんの巻
著者:山本甲士
発売日:2019年05月
発行所:双葉社
価格:744円(税込)
ISBNコード:9784575522204

ひかりの魔女 さっちゃんの巻
著者:山本甲士
発売日:2020年10月
発行所:双葉社
価格:748円(税込)
ISBNコード:9784575524048

ひかりの魔女 よつば旅館の巻
著者:山本甲士
発売日:2026年03月
発行所:双葉社
価格:803円(税込)
ISBNコード:9784575529081

 

試し読み

双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」にて、『ひかりの魔女』の試し読みが公開されています。

▶『ひかりの魔女』の試し読みはこちら

 

著者プロフィール

山本甲士(やまもと・こうし)

1963年生まれ。主な著書に、ロングセラーとなっている「ひかりの魔女」シリーズ、「迷犬マジック」シリーズ、冴えない中年男が逆転劇を見せる「ひなた弁当」「民宿ひなた屋」「ひなた商店街」などのひなたシリーズの他、『俺は駄目じゃない』『そうだ小説を書こう』『かみがかり』『ひろいもの』『迷わず働け』『運命のひと』『戻る男』『めぐるの選択』『ネコの手を借ります。』など。

 
『小説推理』(双葉社)2014年5月号より転載