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ロープウェーに閉じ込められたあの日から、地上に降りても“宙ぶらりん”なままの日常をゆらす物語|『宙ぶらりんの箱』片島麦子

『宙ぶらりんの箱』片島麦子

実力派の作者が、特異な体験をした人々のその後の揺れ動く日常を鮮やかに描いた力作

ロープウェーの故障事故により、ゴンドラの中に乗客たちが閉じ込められた。しかしこれは、物語のプロローグ。本書は、それによりその後の日常が揺らぐようになった乗客たちを主人公にした連作長篇である。

作者は、ゴンドラが宙ぶらりんになった現場に、地方テレビ局の新人アナウンサーの野呂が駆けつける場面から物語をスタートさせる。上手いと思ったのは、野呂のリポートにより、事故の概要を説明していること。それにより物語の大切な設定を、読者はすんなりと理解することができるのだ。

このプロローグを経て、事故の当事者たちの、その後の物語となる。第1章の主人公は、看護師の水原里衣子。事故で怪我をしたときに介抱してくれた咲哉と同棲している。しかし咲哉は料理以外のことはせず、ヒモ生活を満喫していた。そのことを里衣子から聞いた友人の環は、咲哉を見極めようとするのだが……。

読んでいるうちに分かってくるが、里衣子はダメンズ好きのようだ。一方で、環が里衣子に執着しているような雰囲気もある。咲哉と環の間で揺れる里衣子と、同棲の顚末が読みどころ。宙ぶらりんな人生も、結局はどこかに着くのだと、苦笑いを浮かべてしまった。

その後、登場するのは以下の乗客たち。訳ありの老人姉弟。3年前に妻子が家を出てからひとり暮らしをしている男性と、会社を辞めたことを家族に隠している男性。タイプの違う二組の家族。事故でパニックになり、人が多いところに出かけられなくなった女子高生と、各章でそれぞれの人生が描かれていく。落ち着かない日常に翻弄される人々を見つめる作者の視線は冷静だが優しい。第4章に登場する二組の家族の話は切ないが、エピローグで救いが感じられるようになっているから、気持ちよく本を閉じることができるのだ。

また、里衣子と咲哉の喧嘩の原因のひとつとなったペンダントを始め、幾つかの小道具が話を横断して巧みに使われている。こうしたテクニカルな部分も、本書の読みどころになっているのだ。

 

書誌情報

宙ぶらりんの箱
著者:片島麦子
発売日:2026年03月
発行所:双葉社
価格:1,980円(税込)
ISBNコード:9784575248753

 

試し読み

双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」にて『宙ぶらりんの箱』の試し読みと、著者・片島麦子さんのインタビューが公開されています。

▶『宙ぶらりんの箱』の試し読みはこちら

▶著者・片島麦子さんのインタビュー記事はこちら

 

著者プロフィール

片島麦子(かたしま・むぎこ)

広島県生まれ。2013年、『中指の魔法』(講談社)で作家デビュー。他の著書に『銀杏アパート』『想いであずかり処にじや質店』(ともにポプラ社)、『レースの村』(書肆侃侃房)、『未知生さん』(双葉社)、『ギプス』(KADOKAWA)がある。

 
『小説推理』(双葉社)2026年5月号より転載