二次会で“運命の人かもしれない人”に会った?
深酒で記憶をなくすと、自分は何をしていたんだろうか大丈夫だったろうか、いや、そもそも大丈夫じゃないから深酒をしてしまったのでは……と地獄のループに入るが、猛省しながらヒントをたどって記憶のパズルのピースを拾う行為は、ちょっと宝探しっぽくもある。
『僕はあの夜あの子と』は、まさにめくるめく宝探しの物語だ。“直”は、酔っ払った翌朝、目覚めると裸でラブホテルのベッドに1人寝ていた。なんだかハッピー&スッキリした気分だが、隣にいるはずの相手はどこに行った? そもそも相手は誰?
記憶をたどると、まず思い浮かぶのは前日の夜のこと。

この1ページだけでいろんなことが察せられる。花嫁の左目の下にある2ヵ所のホクロがやけに印象的なのは、もしかしたら主人公の“直”が、そのホクロを「かわいいなあ」と思っていたからなのかもしれない。

あきらかにドラマが渦巻いている。つまり二次会で出会った誰かと直は一夜を共にしたようだ。ただの“ひと晩の出来事”として忘れちゃう? でも、実はとても大切な夜だったとしたら?
直は二次会で出会った女性たちに連絡して“あの夜”を思い出そうとするが……?

これは「二次会でのあなたとの会話については、忘れるわけないじゃんだと思うのですが、ラブホのことはやっぱり思い出せません。どうでしたっけ?」という顔だ。言えるわけがない。
「あの夜のこと覚えてる?」
結婚式の二次会は、記憶アヤフヤ事件の舞台として最適だと思う。人生の節目のイベントに立ち会ってみんなの心がちょっと揺れていて、その全員の身元が明らかだ。

この写真の中に“あの夜の女の子”がいるかもしれない。本作はラブコメディだが、ミステリーでもある。
あの夜、直はいろんな女性と会話したのだ。たとえばタバコを吸いにふらりと現れた“田上さん”。

直は新婦側の招待客で、彼女は新郎側だからまったくの他人同士。そんな2人が結婚式の二次会でどんなことを話す? 本作は緩く揺れるような会話が非常にうまい。

少しずつ会話を重ねて、お互いの距離が近くなるような、近くならないような、でも知り合う前とは明らかに違う空気が育っていく。とても心地よい。
そういえば深い仲の人との会話は最初から濃厚だとは限らないし、大抵はなんとなく始まる。なので直と“あの夜の女の子”かもしれない女性たちとの会話にも際どく期待してしまう。ちなみに、直は「田上さんは絶対にちがう」と結論づけるが、田上さんとの会話がとても重要だったことも、やがて思い出す。
とにかく直が記憶をだいぶ失っているので、会話を重ねてそれを取り戻していくことになる。“灯さん”の回も会話の綱引きがすばらしかった。

どっちだ? どっちなんだ? 灯さんの全部の言葉が意味深に聞こえる。「(連絡して)よかったよ」と答えたあとで、そっと「よかったと思う」ってつなげるんですよ? 何それ! しかも灯さんは「あの夜のこと覚えてる?」なんて言ってくる! 覚えていないから直は灯さんを食事に誘ったのに!
でも、どうやら灯さんでもないようで……。ところがそれで終わりではない。“あの夜の女の子”ではない女性たちが、直に見せる顔やしぐさや言葉からドラマがどんどん生まれるのだ。

なんて言えばいいか、わかんないよね。それまで散々盛り上がった2人の会話は気まずく途切れ、しばらくの沈黙ののち灯さんは「ある単語」を言う。シチュエーションだけでこんなにも単語の色が変わるのかと感動した。
ところで、もしも直が記憶をなくしていなかったら、直は二次会で会った女性たちとどうなったのだろうとつい考えてしまう。それこそ運命のすれ違いなのではと思うようなことがたくさんあるのだ。
直はロマンチックな男だ。でも、なぜ“あの夜の女の子”なのか。それが運命かもしれないから? では運命とはどういうものなのか。

その子が見つかったら、何が起きるの?

そう! もしその人が“あの夜の女の子”じゃないなら、運命の人かもしれない人を別ルートで探せばいいのでは? ……いや、そういうわけにはいかない。記憶から消えてしまった人を忘れたままにしたくない。直のもどかしい気持ちはわかる。見つかりますように!
*
(レビュアー:花森リド)
- 僕はあの夜あの子と 1
- 著者:森巡る 関根蒼
- 発売日:2026年02月
- 発行所:講談社
- 価格:792円(税込)
- ISBNコード:9784065422700
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※本記事は、講談社|今日のおすすめ(書籍)に2026年3月20日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。

