ヤクザが主役のエンターテインメント作品に欠かせない街といえば、東京・歌舞伎町や大阪・ミナミ。しかし、古くは『仁義なき戦い』の時代から、広島もまた、激しいヤクザ抗争を描く場所として外すわけにはいきません。
『広島ギャングスタ』は、近未来の西暦2063年とある復讐劇を軸に、ネオ広島市で跋扈(ばっこ)するギャングスタたちを描いた作品です。ただし、本作がただのヤクザモノと一線を画すのは、SF的要素があり、これが物語の大きな鍵を握っている点。
この時代の日本には「能力者」と呼ばれる一部の人間に、“ブラックニューロン能力”が備わっています。これは、死の淵から蘇った者だけが得ることができる特異能力。その発現形態は千差万別です。
たとえば、腕が巨大化する「剛腕変異」
金属を自在に操れる「金属操作」
嗅覚が異常に鋭くなる「万倍嗅覚」
このSF×復讐×ヤクザストーリーの主人公は、廣島天狼連合世良獅子組若衆の桐村仁。まだあどけなさも残る、19歳の若者です。
ある日、世良獅子組若頭補佐の宮本武流(たける)が、何者かに殺害されるという事件が発生。先ほど紹介した、「剛腕変異」能力の持ち主です。
実は今、ネオ広島市ではある連続殺人事件が起きていました。その名も「ヤクザ狩り」。被害者にはひとつの共通点があります。それは、宮本を含め、殺された全員が、世良獅子組所属の「能力者」だったということ。
兄貴分を殺され、怒り心頭の世良獅子組若衆・三神アキラ。
彼は桐村の兄貴分であり、どうやら能力者のようです。宮本の仇を取らんと息巻く三神でしたが、たまたま宮本の殺害現場を通りかかった際、あるモノを発見します。
それは、舎弟である桐村がどこかで落としたと言っていた、頭痛薬。まさかとは思いつつも、疑り深い三神は桐村を問いただします。兄貴を殺したのはお前なのか、と。
刹那、桐村の表情が一変。
作品上でも桐村の正体は明かさずに物語が進んでいたので、ここまで読んでいる自分も、まさか、もしや……と三神にシンクロ。三神にとっては怒り、自分にとっては興奮のシーン。桐村のこの顔には、ゾクゾクしますね……!
なぜ、桐村は宮本を殺害したのか。その理由は8年前にありました。桐村の兄が組の金に手を付けたとして、宮本や三神によって、兄を含む桐村の家族全員が殺害されてしまったのです。桐村はその時、一度殺されながらも蘇生。その結果、特異能力を授かります。
ブラックニューロンの特異能力「体感時間操作」を駆使し、三神が放つ弾丸を避ける桐村。一方の三神も特異能力「金属操作」で対抗。ドスで殺し合うヤクザは時代遅れと言わんばかりの、『マトリックス』を彷彿させるSF映画チックなバトルシーン。
この異能対決に、桐村は見事圧勝。しかし、まだ復讐は終わっていません。家族を殺した組織の奴ら、その最後のひとりが残っているのです。
さらに「オレは盗っとらん」と言った兄が死ぬ間際に残したこの言葉も気になるところ。
ここまで順調に進んだ桐村の計画。しかし宮本や三神を殺害したヤクザ狩り犯は身内にいるとにらんだ組長・世良が、「万倍嗅覚」の能力者を弟に持つ、蟹丸凶次郎に犯人捜しを依頼します。この凶次郎と弟・凶之介のキャラクターがとても魅力的。
凶之介の「万倍嗅覚」は、驚異的に発達した嗅覚自体も大きな武器ですが、緊張した人間が発する精神的発汗の匂いを嗅ぎ取ることで、嘘を見抜くことも可能。正体を隠して組織に潜り込んでいる桐村にとっては都合の悪い能力であり、事実、凶之介は見事にヤクザ狩りが桐村であることを突き止めます。実に優秀。
一方で、能力者ではない兄・凶次郎は、勘も鋭く、上手に弟を導いていく司令塔。また、うだつのあがらなかった時代には戻りたくない、というヒリついた野心の持ち主でもあります。
この後、兄弟の命運は大きく分かれてしまいますが、本作の序盤を盛り上げてくれる名キャラクターたちです。
「剛腕変異」「体感時間操作」「金属操作」「万倍嗅覚」など、様々なブラックニューロン能力が登場する1巻。この先も、まだまだいろいろな能力者たちが現れそうな予感。中でも、桐村が追う「蛇の入れ墨男」。今は刑務所内で服役中だというその男は、広島イチの能力の持ち主なんだとか。いったいどんな能力なのか、気になる描写もチラリ。
沈静化しているヤクザ社会を再び火の海にしようと画策する男も出現するなど、異能者バトルにヤクザの抗争も絡み、さらに桐村の兄をハメた男の存在など、この後の展開も気になります。これら見どころを楽しみながら、桐村の復讐劇の結末を見届けたくなる、そんな作品です。
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(レビュアー:ほしのん)
- 広島ギャングスタ 1
- 著者:大地 芥瀬良せら
- 発売日:2023年06月
- 発行所:講談社
- 価格:715円(税込)
- ISBNコード:9784065318676
※本記事は、講談社コミックプラスに2023年6月24日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。