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【第7回】訴えかける強烈なインパクトで、新しい価値観と出会える。『ダーウィン事変』の世界

中山夏美

山形市出身在住。2020年に東京からUターン。山と芸能を得意とするライター。小学1年生のときに『りぼん』(集英社)に出会い、漫画にハマる。10代は少女漫画ばかり読んでいたため、人生で大事なことの大半は矢沢あい先生といくえみ綾先生に教えてもらった。現在は少年、青年、女性、BLまで、ジャンル問わず読んでいる。電子書籍では買わず、すべてコミックで買う派。


アウトドアとエンタメを得意とするライター中山です。プロフィールに人生で大事なことは漫画から教えてもらったと書きましたが、これは嘘ではないと言い切れます。恋愛も、友情も、料理もスポーツも。オシャレも編集者としての仕事だって、すべて漫画から得た情報。それが例えフィクションだとしても、知らない世界を見るのはおもしろいです。近未来の話がいつの間にか現実になっていることもありますしね。

“新しい学び”として思いついた作品が今回紹介する『ダーウィン事変』(講談社)です。主人公は、半分ヒトで半分チンパンジーの“ヒューマンジー”。まったく触れたことがない世界。もちろん完全フィクションで、今はあり得ない話ではありますが、この先あり得るかもしれないとも思えます。第7回『ダーウィン事変』を紹介していきます。

 

『ダーウィン事変』うめざわしゅん

 

フィクションの中にある“リアル”を感じて

『ダーウィン事変』は『月刊アフタヌーン』(講談社)にて、2020年8月号より連載中。現在5巻までコミックが発売中です。「マンガ大賞2022」で大賞を受賞し、話題となりました。

第1話の原稿データをクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに提供し、非営利目的で、改変しない場合に限り、自由に複製再配布が可能となっています。これは、編集担当者が「とにかく多くの人に読んでもらえることなら全部やろう」と考えて行なったこと。その効果もあってか、第1巻が発売されたときから、すぐに評価をされる作品となりました。

「動物愛護」の意識が高いヨーロッパ圏をはじめとする海外の注目度も高いそうで、続々と海外版も出版されています。

簡単に内容を説明すると……。「舞台はアメリカ。テロ組織『ALA(動物解放同盟)』が生物化学研究所を襲撃した際に保護された妊娠中のチンパンジーから、半分ヒトで半分チンパンジーの“ヒューマンジー”が産まれる。チャーリーと名付けられ、人間の両親に育てられていた。15年後、人間が通う高校に入学したチャーリーは、好奇の目にさらされる。そこで人間の女子・ルーシーと出会い、初めて“友達”ができる。一方でALAの動きがさらに過激になり、人間でもチンパンジーでもないチャーリーをリーダーにしようと狙ってくる展開に。多様な価値観、世界観を描いた社会派ストーリー」

「ヒトとチンパンジーの子供」と聞くと、まったくリアリティがない話のように思えるのですが、話が進んでいくごとに、どんどんリアルに感じていきます。「差別」、「多様性」、「動物愛護」、「炎上」、「テロ」。すべてをフィクションであるとは、言い難い内容が織り交ぜられています。

それでは早速、魅力に迫っていきます。

〈魅力1〉単純な視点で描いていない世界観

『ダーウィン事変』に出てくるテロ組織「ALA(動物解放同盟)」は過激派ではありますが、世界でも動物の権利やヴィーガンは話題となっているテーマです。ヒューマンジーのチャーリーは、ヴィーガン。それは育ての親であるふたりがヴィーガンであることが影響しています。

チャーリーがヴィーガンであることを知った同級生は、彼に問います。「ヴィーガンが言う、どの動物の命も平等というのはどうなのか。もしも致死的な病原菌を持ったネズミが噛みつこうと向かってきたらどうするのか。ネズミの命も平等だといって自分の命を差し出すのか」と。それに対してチャーリーは「ネズミを撃ち殺すよ。でも例え病原菌に感染しているのが君だとしても撃ち殺すけど」と答えるのです。

ニューヨークでヴィーガンテロが過激になり、再びヴィーガンの正義を問われる場面でチャーリーは、「なんで、人間だけは殺して食べちゃダメなの?」とも言います。

人間とそれ以外の動物たちとの関係をどう捉えていくべきなのか。ヴィーガンが良い、逆にお肉を食べることが悪いわけでもありません。動物でも人間でもないチャーリーが両者の目線で主張をすることで、私たちが“どの視点で見るか”、“この問題をどう捉えるのか”を提示してくれているように思います。

私たちは常に人間の視点で物事を見てきました。いろんな考えの人がいても、結局は“人間の考え”です。だからこそ動物でも人間でもないチャーリーのセリフは、響いてくる。友達となったルーシーに「ヒューマンジーってどんな感じ?」と聞かれて、即座に「人間なのってどんな感じ?」と問いかけます。考えたこともなかった視点ですよね。

多様性が叫ばれる世の中において、チャーリーの言葉はとても重く、漫画を読み進めるごとに新しい価値観が自分の中に刻まれていくのを感じます。

〈魅力2〉説明しにくいおもしろさ。まずは第1話を読んで!

魅力を語らねばならないこの連載において「まずは読め」というのは、なんとも傲慢なのですが……。内容を深く知らないままに読み進めて欲しいという気持ちがある作品です。

「ヒューマンジー」、「動物愛護」、「テロ」、そして「社会派ストーリー」と聞くと、もうそれだけで重たい内容のように思われるかもしれないのですが、第1話を読めば、チャーリーのキャラとしての魅力、作品のおもしろさがすべて伝わると思っています。

自分(人間)が理解できない存在が目の前に現れたとき、すんなり受け止めることができるのだろうか。私は、やはり好奇の目で見てしまうような気もします。

「君もボクもすべての動物は、ただの1(ONE)だよ」。世界で唯一の存在であるチャーリーの言葉です。自分がなぜ特別なのかわからない。だってみんなそれぞれが「1」であるから。自分の中にある“正義”や“当たり前”をすべてぶっ壊す必要がある気さえしてきます。

第4巻で衝撃が走る!

第4巻のラスト、とんでもない展開が待っています。ハッキリ言って衝撃すぎて、叫びました。それがどんなものなのか、少しでもネタバレになるようなことは言いたくありません(笑)。ちなみに、うめざわ先生も連載当初から、まずはこのシーンを目指して描かれていたそうです。今、世界が注目しているテーマを知る目的としても『ダーウィン事変』は、読むべき漫画だと思います!


※本記事は「八文字屋ONLINE」に2023年6月11日に掲載されたものです。
※記事の内容は、執筆時点のものです。