人と本や本屋さんとをつなぐWEBメディア「ほんのひきだし」

人と本や本屋さんとをつなぐWEBメディア「ほんのひきだし」

  1. HOME
  2. 本と人
  3. ほん
  4. 「建築」に生きると決めた――。 飛び込んだ世界は実力主義の魔境!『MYS』

「建築」に生きると決めた――。 飛び込んだ世界は実力主義の魔境!『MYS』

知らない世界に出会えるから、お仕事マンガはおもしろい

新作マンガを読んでいていちばん楽しい瞬間は、自分の知らなかった業界を題材にした作品に出会えたとき。
いわゆる「お仕事マンガ」と呼ばれるジャンルが、私はとても好きです。
2025年12月9日に第1巻が発売された 『MYS』(ミース)は、「建築」をテーマにしたかなり珍しい一作。
私のように建築業界を初めて覗く読者にとっては、その異色さと熱量に圧倒され、夢中になること間違いありません。一方で、建築(特に設計)に関わったことのある人なら、その本格度にワクワクが止まらないはずです。

 

「卒業制作の甲子園」から始まる、七三の挑戦

スター建築家を目指す前阪七三(ななみ)は、大学4年生。

「卒業制作の甲子園」とも呼ばれる建築学生の大会「せんだいデザインリーグ」で、最終選考に残る実力者です。

自信満々で挑んだプレゼンでしたが、憧れの建築家・烏丸研一からは容赦ない酷評を受けてしまいます。

それでも七三は引き下がらず、悔しさと熱意をぶつけ、烏丸事務所「カラスマ・アーキテクツ本社」への就職を勝ち取ります。こうして彼女は、建築家としての第一歩を踏み出すことになるのです。

 

甘さゼロの実力主義。アトリエ系建築事務所の洗礼

配属された第6設計室で、いきなり突きつけられるのは無理難題。
「おもしろい案ならいくらでも出資する」という実業家の依頼で、徳島県・星野島に私設美術館を設計することになります。

同期入社の吉倉美國(みくに)とともに現地に滞在しながら、依頼主も島の住民もハッピーになれる美術館の形を模索していく七三。
ここから、理想と現実がぶつかる“アトリエ系建築事務所”の本番が始まります。

 

キャラ濃すぎ? だからこそ面白い、設計の世界

本作の舞台は、作家性の強い建築を手がけるアトリエ系設計事務所。
一般住宅ではなく、「作品としての建築」を扱う世界だからこそ、求められるのは柔軟さと斬新さ。その結果、烏丸事務所に集うスタッフは、もれなくキャラ濃いめです。

1巻では七三と美國が中心ですが、今後ほかの同期や先輩たちがどんな設計をし、どんな価値観で彼女たちと関わっていくのか――その広がりにも期待が高まります。

 

全力でぶつかる七三と、距離を保つ美國

そんな曲者ぞろいの世界に飛び込んだ七三の奮闘ぶりは、とにかくまっすぐで熱い。

建築に向ける情熱、全力で取り組む根性、周囲を巻き込む無鉄砲さが、物語をぐいぐい前に進めていきます。気づけば読者も、その勢いに引き込まれているはず。頑張る姿に、自然と背中を押されます。

一方、バディ(?)となる美國は優等生タイプ。

「せんだいデザインリーグ」で優勝した日本一の学生でありながら、七三のことをまったく覚えていないなど、どこか他人にも世界にも距離を置いています。建築への熱も人には見せず、本心はまだ見えません。

ただ、七三の勢いに確実に巻き込まれているのも事実。
この温度差のある2人が、今後どう噛み合っていくのかも大きな見どころです。

 

『MYS』が描こうとしている“建築の神話”

ところで、タイトルの『MYS』とは何を意味するのでしょうか。
英語タイトルが The myth of architecture and architects であることから、「myth=神話」に由来しているのだとは思いますが、なぜ“MYTH”ではなく“MYS”なのか。その答えも、物語を読み進める中で明かされていくのかもしれません。
彼女たちが建築家としてどんな“神話”を築いていくのか――それを見届ける楽しみも、この作品にはあります。

 

勢いのある今こそ、飛び込んでほしい一作

すでに第2巻の発売が2月に予定されている本作。
物語はさらに建築業界の内部へと踏み込み、熱量も加速していきそうです。
勢いがある今だからこそ、新しいお仕事マンガに出会い、2026年を走り抜けるエネルギーをチャージしてみてはいかがでしょうか。

(レビュアー:Micha)

MYS 1
著者:土屋ペンネ 垣つねおき
発売日:2025年12月
発行所:講談社
価格:792円(税込)
ISBNコード:9784065420300

※本記事は、講談社|今日のおすすめ(コミック)に2026年1月17日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。