さまざまなテーマやジャンルについて、本格的で専門的な知識や情報を得ることができる「パートワーク(分冊百科)」。模型を組み立てたり、ミニチュアモデルを集めたりと、楽しみながら趣味の世界を広げていける出版物として支持を集めています。
今回は、そんな「パートワーク誌の王道を行くようなテーマ」という「週刊 スバル360をつくる」の熱意みなぎる制作の裏側と込められた思いについて、アシェット・コレクションズ・ジャパン編集部長の佐藤建さんにご紹介いただきました。
■創刊:2022年12月14日
■定価:創刊号特別価格本体272円+税、2号以降通常価格1,999円+税
■雑誌コード:37151
■判型:A4変型判
■刊行形態:週刊
■発行日:毎週水曜日
■雑誌の特色:昭和日本の希望を乗せて走った国民車“てんとう虫”を組み立てよう!
1/8スケール、ボディは重厚なダイキャスト製。
パートワークの王道を進む~「週刊 スバル360をつくる」創刊に寄せて
「週刊 スバル360をつくる」と聞いて、「ああ、とてもパートワーク誌らしい企画ですね」と言ってくれる書店員さんがいたとすると、その方はかなりのパートワーク通だ。そのくらい「スバル360」は、パートワーク誌という出版物のエッセンスが詰まった、王道を行くようなテーマだと思う。
パートワーク誌という本の形態は、もともとイタリアやスペイン、そしてアシェットの本拠地、フランスなど、ラテン系のヨーロッパ発祥とされている。楽譜や地図帳、百科事典といった大部の書物を分割払いで買ってもらうために考案されたのが最初だと聞く。バラバラにされて売られているけれど、本質としては単に「大きな本」ということになる。
わたしが考えるパートワーク誌の王道とは、人生の機微を知った大人が先人たちが築き上げた文化や歴史、技術がもつ奥行きを、生き生きとした体験としてダイナミックに味わうことができる「大きな本」のことだ。
スバル360のメーカー、スバル(富士重工業)は、旧日本軍の戦闘機の代表的なメーカーであった中島飛行機を母体としている。この中島飛行機は、航空技師出身の創業者、中島知久平の故郷、群馬県太田市に設立された。スバル360の発売年は昭和33年。スバルのエンジニアたちは、太平洋戦争が終わってからたった13年後に、都市部が一度は焼野原になってしまった日本で「大衆車」を生み出していたことになる。
彼らは、戦時には世界をリードする戦闘機を作り上げた高度な技術的蓄積という土台の上に、戦後の混乱の中から、生活者のための自家用車を創造したのだ。その意味で、スバル360は「日本復活」の希望に満ちた象徴でもあったのだ。
このパートワーク誌を通して、スバル360の歴史的背景をマガジンで辿りつつ、同梱されるパーツを組み立てながら、市井のエンジニアや職工たちが積み重ねた工夫や努力の跡、息遣いを感じ取っていただけたら、と思う。
ところで、1/8スケールという大型の自動車模型がどのように設計、製造されるかは興味をそそられる部分だろう。機械遺産にも登録されているスバル360のように半世紀以上も前に製造された自動車がモデルの場合、模型開発は一筋縄ではいかない。そもそも、メーカーが記念庫に保存しているものも含めて、保存車両自体が極めて希少であり、破損の懸念があるため分解作業が不可能な場合も多い。
実車両のボディを光学三次元スキャンすることなどから計測は始まるが、ボディ鋼板表面の反射具合や保管条件により、この作業が非常に困難な場合もある。シャシー(車輪などを支える車台)はジャッキで挙上してスキャンするのが標準で、エンジンは単体でないとスキャンできない等々。また「資料」という意味でも、そもそも保存車両が部品変更などのない標準仕様である保証はどこにもない、といった具合に、模型開発者には苦労が絶えない。
今回発売する「週刊 スバル360をつくる」にしても、スバル研究実験センター(栃木県佐野市)保管車両をはじめ、複数の車両をスキャンもしくは計測、写真取材、技術考証を行って三次元設計図を作成し金型を起こしている。
気が遠くなるような作業ではあるが、こんな苦労をいとわない模型開発者たちは、「小さいけれど本物のクルマ」をお届けしたいという一種の執念をもったクルマ好きたちだ。「先人たちの経験を伝え、共感したい」という動機は、わたしのような編集者が抱くものと全く同じなのだ。
この意味でパートワーク誌は、見た目は冊子や模型部品が箱に入っていて普通の「本」とはだいぶ異なるけれど、「大きな本」として、書物の歴史の末端でまだなにか、かけがえのない経験を伝えようとしているのだ。
アシェット・コレクションズ・ジャパン 編集部長
佐藤 建 SATO Ken
1968年東京都生まれ。「週刊アスキー」副編集長を経て2010年よりアシェット・コレクションズ・ジャパン編集部長。趣味はカリステニクス、フットサル、ジャズギター。
(「日販通信」2023年1月号「編集長雑記」より転載)