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実在する本が謎を解くカギになる!学校図書館が舞台のビブリオミステリ|大崎梢『27000冊ガーデン』

事件は図書館で起きている──? 学校司書と書店員が挑むのは本にまつわるさまざまな事件。高校という場所だからこそのビブリオミステリに酔え!


瀬尾まいこ『図書館の神様』や名取佐和子『図書室のはこぶね』、米澤穂信『本と鍵の季節』、竹内真『図書室のキリギリス』、そして恩田陸『図書室の海』……高校の図書館を舞台にした作品は、ジャンルは違えどどれも郷愁めいた感慨を呼び起こす。書店や公営の図書館がいつでも利用できるのに対し、人生の中で限られた3年間だけの、宝の島のようなものだからかもしれない。

そんな宝島に、本と出版にまつわる小説の第一人者である大崎梢がついに上陸だ。いやあ、移動図書館の小説は書いてるのに、どうして学校の図書館の話がないのかなあと思っていたのだ。まさに満を持して、である。

舞台は県立高校の図書館。学校司書の星川駒子と、その図書館に本を納入している書店員の鉢谷が、図書館がらみで起きた事件の謎を解くという連作ミステリである。

図書館の本を置き忘れた場所で人が転落死した一件、密室のはずの図書館でディスプレイが壊されていた事件、駒子の前任高校で生徒が問題を起こす話──などなど物騒な事件が続いたあと、ビブリオミステリらしい2作が登場する。第4話「クリスティにあらず」は、校内で起きた連続紛失事件の現場になぜか図書館から持ち出されたミステリ小説が置かれているというもの。最終話「空を見上げて」は、おばあちゃんが読んだという春雨づくしの献立が載っている本を探す物語である。その本がわかったときには、「それか──!」と思わず声が出た。

どれも謎解きの意外性とサプライズに満ち、実在の本も多く登場するとあって、本好きのミステリ好きなら楽しめること間違いなし。同時にどの話も、高校生という成長途上の若者にとって本とは何なのか、何をもたらすのかがじんわり伝わってきて、とてもいいのだ。

多感な時期に、その気になれば27000もの指針が、経験談が、支えが、すぐそばにあるということのなんと貴重なことか。若さゆえに時には「読み方」を間違うこともある。また、異なる時代に同じ高校に通った生徒が本を通じて結びつくこともある。育った環境の違う生徒が同じ本を手にすることもある。学校という場所ゆえに、生徒の逃げ場になることもある。それらぜんぶ含めて、学校という場所に図書館が、学校司書が、存在する意義なのだ。こういうことって、どうして過ぎてから気づくんだろう。

これはぜひシリーズ化をお願いしたい。大工の羽多くんがすごくいいので、再登場を願う!


27000冊ガーデン
著者:大崎梢
発売日:2023年4月
発行所:双葉社
価格:1,760円(税込)
ISBN:9784575246223


双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」にて『27000冊ガーデン』の試し読みが公開されています。

試し読みはこちら

『小説推理』(双葉社)2023年6月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載