ほんのひきだしでは、2026年1月1日(木)から、各出版社の文芸編集者の皆さんが「今、この作家を読んでほしい」とおすすめする、短期連載企画「編集者が激推し!2026年の注目作家はこの人」をお届けします。
ぜひ、気になる作家や作品を見つけて、書店に足を運んでみてください。
集英社 文芸編集部・眞田尚子さんの注目作家は「小池水音」さん

小池水音 (こいけ・みずね)
1991年東京生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。2020年「わからないままで」で第52回新潮新人賞を受賞しデビュー。3作目「息」が第36回三島由紀夫賞候補作に、同作とデビュー作を収録した初の単行本『息』は第45回野間文芸新人賞候補作となった。25年に『あのころの僕は』で第13回河合隼雄物語賞を受賞。同年、「あなたの名」が第38回三島由紀夫賞候補作となる。
端正な文章で紡がれる、「記憶」と「喪失」の物語
あなたは、子どもだったころの経験を、当時抱いた感情を、そのままの手触りで思い出すことができますか?
鮮やかだったはずの景色のほんの一部しか覚えていなかったり、かつての自分の気持ちをうまく言葉で表せなかったり、もどかしい思いが沸きはしないでしょうか。
今日は「記憶」と「喪失」を作品の軸にすえ、美しい文章で小説を書き続けていらっしゃる小池水音さんをご紹介させてください。
小池さんは2020年、初めて書いた小説「わからないままで」で第52回新潮新人賞を受賞しデビュー。3作目の「息」は三島由紀夫賞の候補作に、同作とデビュー作を収録した初の単行本『息』は第45回野間文芸新人賞候補作となりました。2025年に『あのころの僕は』で第13回河合隼雄物語賞を受賞されています。
先日発売となった最新刊『あなたの名』は、末期がんを患う高齢の女性が、自身をAIの中に遺すべく記憶を記録するというチャレンジグな一作です。
すでに自らのもとを去ってしまった人や時間、記憶の輪郭を大切になぞるような筆致で描かれる小池作品ですが、河合賞受賞作『あのころの僕は』もまた、かつての子ども時代の記憶に手を伸ばす、天(てん)の物語です。
母を病で亡くした当時、天は5歳の少年でした。そして時を同じくして彼の前に現れたのは、同じように親との離別を経験した同級生・さりかちゃん。
父を残し、母と二人きりでイギリスから日本に渡ってきたさりかちゃんと天との間には、特別な絆が生まれます。
ハロウィンの仮装、世界を救うロールプレイングゲーム、雪だるまづくりに、バレンタインデー。宝物のような記憶が彼の人生に刻まれてゆくのですが、やがて抗えぬ変化が訪れ……。
「主人公の少年のことを、何度も抱きしめたい気持ちになりました」
これは選考委員の小川洋子さんが授賞式で述べてくださったお言葉ですが、主人公の天はもちろん、子ども時代の自分をも一緒に抱きしめたくなるような一冊だからこそ、河合隼雄物語賞が与えられたのではないかと想像しています。
本書を読み進めるなかで、もういないはずの「子どもの自分」にふたたび出会えたような、そんな感触がしてやみません。
(集英社 文芸編集部 眞田尚子)
- あのころの僕は
- 著者:小池水音
- 発売日:2024年09月
- 発行所:集英社
- 価格:1,760円(税込)
- ISBNコード:9784087718805
- あなたの名
- 著者:小池水音
- 発売日:2025年07月
- 発行所:新潮社
- 価格:2,145円(税込)
- ISBNコード:9784103550426


