その漫画が奏でる音はどんな音だ?
『あさやけリフレイン』は、ガールズバンドの物語だ。主人公の河下心(通称・shin)は、ベース歴3年DTM歴1年半の高校生。バンドを組んでみたいとは思うけれど、人付き合いが苦手。自作曲をネットにアップして楽しんでいる宅録少女だ。そんな彼女の音楽を熱心に追っかけているのが、フォロワー数19.4万人のVTuber九六衣カコ(くろいかこ、……なにかありそうな名前だけど、通称はリク)。リクは、shinが参加した音楽即売会に押しかけ、唐突にこう話しかける。

リクはグイグイとshinにバンド結成を迫る。バンドを組むこと、そして観客側でなくステージ側に立つことに憧れを抱くshinも承諾する。そしてリクは、バンドの目標をこう語るのだ。


ASAYAKEとは、大トリのライブが、太陽の登るのと同時に始まることで知られる「ASAYAKE ROCK FESTIVAL」という音楽フェスのこと。shinの好きなバンドもASAYAKEで演奏し、その映像を観ては全身が焼き付くような衝撃を受けていた……。こうしてふたりのあちら側(バンド)への挑戦が始まる。
と、物語の冒頭部分を説明したけれど、「今、バンド始めるってこんな感じなの?」ってところに衝撃を受けた。
「当方ボーカル。ギター、ベース、ドラムを探しています。ニルヴァーナみたいなロックをやりたいです!」って雑誌にバンドメンバー募集するんじゃないの?
目標は、メジャーデビューじゃないの?
ゴリゴリのロックをやっているのに、プロデューサーから「お化粧しろ」とか「君、顔がいいから今日からボーカル」とか指示されちゃうんじゃないの?
違う!
DTM、Sound Cloud、SNSに即売会、そして目指すはフェスのヘッドライナー。
CDから音楽配信、テレビからYouTubeというメディアの変化は、バンドのスタート地点と目標までも変えてしまったのだな……と、『To-y』『NANA』『BECK』を読み、『けいおん』以降を素通りした層は、感慨深くなってしまう。
いや、バンド漫画で大切なのはそこじゃないのだ。ギターをギャギャギャーン、ベースをディンッディンッ、バスドラのドッドン!と鳴らしたときの感じ。繰り返される新鮮な初期衝動。それらが音のでない紙から飛び出してくるか? いや、音の出ない紙から音が出てこそバンド漫画なのだ。例えば楽器選び。

shinをバンドに誘ったリクだが、実はこれまでギターを弾いたことがない初心者。そんな彼女が一目惚れして購入したギターが、フェンダーのジャガーなのだ。カート・コバーンが愛用し、オルタナ、グランジ勢に愛されるこのギターを、いきなり選んじゃうのかい! 通だね。でも、羊文学の塩塚モエカが使っていたりするから、ありかも……。あと、本作のあちこちでやたら精緻にエフェクター類を描き込んでいるのも気になる。ついでにshinが弾くベースは、丸いピックガードが特徴的なミュージックマン スティングレイ。このベースを愛用するミュージシャンといえば断然レッチリのフリーなのだが、shinは宅録少女。音作りしやすいってことからのセレクトではないか? この楽器選びから見て、このバンドの方向性は、勢い一発ガツンとカマすパンクではなく、シューゲイザーか。違うかな?
魅力的に過ぎる絵
物語に戻る。shinとリクのバンドに、リクのお姉さん的(保護者的?)な存在の才原一夏(通称・いつか)がドラムとして加入。さらにshinの曲をアレンジしてネットにアップしていた木瀬海(このせかい、通称カイ)が、もう一人のギターとして入る。楽器巧者のshin、いつか、カイに対して、リクは技術的なハンデがあるのだが、彼女には19.4万人のフォロワーを魅了する声を持っている、という構図だ。そしてこの4人が初めてスタジオに会したときのコマ。

か、かっこいい!
というか、作者は間違いなく「女の子が楽器を弾いているところをカッコよく描きたい! (とりわけ女子高生を)」という衝動から漫画を描いている気がする。楽器を体のどの位置において、指でどのコードを押さえさせるか。そういう美学をビンビンに感じるのだ。作者のまつだひかり氏は、漫画家、イラストレーターであると同時に、自主制作アニメーションを手掛け、バンドでボーカルとギターを担当するという多才な人で、楽器メーカーやミュージシャンとの親交も……と聞くと、それも納得である。そして、4人で曲を合わせはじめる。


どうだろう、音が聞こえないだろうか?
ラブストーリーが似合いそうな、ふわっとした女性キャラクターが、ビートを刻み、ギターを掻き毟る。その不似合いの溝を一瞬にして埋めてしまう、バンドの楽しさ、音の喜びに溢れたこの見開き。これを見て、『あさやけリフレイン』はバンド漫画の王道、ど真ん中を行こうとしているのだなと確信した。
そして物語は、ミュージシャンだったリクの父(そして、shinが憧れたミュージシャンでもある)のことや、なぜリクがASAYAKE ROCK FESTIVALにこだわるのか? といった伏線を張りつつ、ASAYAKE ROCK FESTIVALの新人枠でオーディションを受けようという流れに……、って早いな! 「オーディションの前に、早くバンド名を決めろ!」とツッコミつつ、「2巻のチェックはマストだな」と思った。
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(レビュアー:嶋津善之)
- あさやけリフレイン 1
- 著者:まつだひかり
- 発売日:2025年09月
- 発行所:講談社
- 価格:792円(税込)
- ISBNコード:9784065407455
※本記事は、講談社|今日のおすすめ(コミック)に2025年10月29日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。

