いかずちが 心を貫くような
これは 初恋から始まる物語
冒頭の言葉にときめいて、扉絵を見ただけで心を掴まれました。
「面白い話が始まりそう」。そんな予感は見事に的中しました。
なんといっても、天下一の美貌を持つ忍・篝火(かがりび)が、とっても魅力的なのです。
この世にオレに落とせぬ者はいません
篝火のセリフに「こんな自惚れ屋いる!?」とツッコミたくなりますが、手練の“くの一”だろうが、高貴な姫だろうが、恋心につけ込んで落としてしまいます。
だけど心は、いつも冷めている……。
生涯恋などしない
恋に翻弄される奴らを利用して踏みつけて
オレはこの乱世でのし上がってやる──
このギャップがたまりません!!
そんな篝火の次なる任務は、青龍の国の龍の血を引く巫女・竜胆(りんどう)姫を籠絡すること。これまで生きて戻れた刺客は誰もいないという、命がけの仕事です。
とはいえ、篝火にとってはお手のもの。いつもの色仕掛けで竜胆に迫ると……
実は龍神の力を持たない竜胆は、外に出ることすら許されず、ずっと幽閉されていたのです。だから、篝火のハニトラに引っかからないほどの世間知らず。
篝火から、初めて大福をもらったときも……
そんな竜胆は、味方であるはずの次期当主・止水(しすい)から命を狙われます。しかし、篝火ともども殺されかけたそのときでした。竜胆の力が、突如発現するのです。
実は目覚めたのは竜胆の力だけではなく、“篝火の恋心”もでした!!
今まで散々、冷めた篝火のセリフを見てきただけに、この逆転劇には思わず笑ってしまいます。
そして、冒頭に出てきた言葉――これは初恋から始まる物語――とは、そういうことだったのか!!と心の中で拍手喝采でした。
結局、任務を遂行できなかった篝火は、さらに警備が厳重になった離宮に再び侵入します。
ここでも竜胆に調子を狂わされてしまう篝火ですが、生まれも育ちもまるで異なるふたりに共通するのは、幼少期の辛い過去。
家族を殺され、唯一生き延びて忍の里にたどり着いた篝火。
一方、竜胆にも両親はおらず、龍神の巫女として生まれたがゆえの宿命と出生の秘密がありました。
しかも、竜胆の母親は次期当主・止水にとって叔母であるだけでなく、初恋の人。だからこそ止水は、竜胆に対し憎しみを抱えていたのです。
今度こそ囚われの身となった篝火は、龍神様が棲む滝壺へ、生け贄として捧げられることになってしまいました。
そのときの篝火の死を厭わない言葉が、彼の今までの孤独感と人生に対する諦めが滲み出ていて、なんとも切ない。
この作品の魅力は、切なさや緊張感あふれる展開にふっと笑いが差し込まれ、残虐なシーンが出てきたかと思えば、妖艶なシーンもある振れ幅の大きさにあります。
篝火と竜胆もまた、クールな顔を見せたかと思えば、子供のように可愛らしい一面をのぞかせます。
こうした陰と陽の対比が絶妙なバランスでテンポ良く交錯するため、最後まで飽きません。
この先、篝火と竜胆が背負っている宿命と哀しみが、ふたりの行く末にどう絡んでくるのか。心に痛みを抱える篝火は、初めての感情を戸惑うことなく受け入れ、初恋を成就させることができるのか見守っていきたいと思います。
*
(レビュアー:黒田順子)
- やわはだに春雷 1
- 著者:アサダニッキ
- 発売日:2025年09月
- 発行所:講談社
- 価格:792円(税込)
- ISBNコード:9784065407479
※本記事は、講談社|今日のおすすめ(コミック)に2025年10月11日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。