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呪いをかけられた美少女の望みは、鬼が叶える――心を癒す和風恋愛ファンタジー『千年の花嫁』

『千年の花嫁』

外見よりも、心の美しさで人を見る物語

「外見ではなく、魂の清廉さで人の姿を判断する」──あぁ、なんて素敵な考え方でしょう。もし人の心の美しさを透(す)かして見られる目を持っていたら、この世界はどんな風に見えるのだろうか。

『千年の花嫁』

『千年(せんねん)の花嫁』は、そんなテーマを優しくも力強く描く和風恋愛ファンタジー。遠山えま先生が贈る最新作は、呪いで老婆となった少女が鬼の子どもたちの母となり、互いの心を癒していく物語です。

 

老婆の姿になった花嫁

多産の家系として知られる兎月家。家訓は「子は宝 宝は子」。政界や財界など名だたる家との縁談で栄えてきた名門です。
末娘の千年(ちとせ)は、美貌と霊力を兼ね備えた兎月家の期待の星。結婚話が途切れることはありません。

『千年の花嫁』

『千年の花嫁』

しかし、そんな妹が面白くない姉・久遠(くおん)は、自分の子を使って千年を罠にかけます。そしてかけられたのは、老婆の姿になってしまう呪い──。

『千年の花嫁』

子どもを産めぬ者は用無し、と婚約破棄され、家から追放される千年。それでも子ども好きな性分は変わらず、村で「子どもを喰うオバケの千年婆」と冷やかしてくる子どもたちにも笑顔(?)を向けます。前向きなのか天然なのか、その底抜けの明るさは、読んでいるこちらまで元気にしてくれます。

『千年の花嫁』

 

突然の結婚、そして鬼の子どもたちの母に

そんな千年のもとに舞い込んだのは、思いがけない婚約話。相手は華族の頂点「皇帝華族」の琥太郎(こたろう)。「お前を母にさせてやろう」という一言とともに千年を迎え入れます。

『千年の花嫁』

嫁ぎ先に待っていたのは、赤・青・白、3人の鬼の子どもたち。幼いながらも、人間から酷い扱いを受けてきた過去を持ち、心を閉ざしていました。
意地悪をされたり、そっけない態度を取られても、千年は気にしません。むしろ「母になれた」という喜びの方が大きく、傷ついた彼らを守りたいと強く願うのです。

『千年の花嫁』

『千年の花嫁』

 

老婆に見えない──心が救われる瞬間

物語の中で特に胸を打たれるのは、子どもたちが千年の外見について一言も触れないこと。
外見ではなく、自分という存在そのものを見てもらえている──ずっと「老婆の姿」を負い目に感じていた千年にとって、それは何よりも心を救われる出来事です。

鬼の子どもたちもまた、過去の傷を抱えています。だからこそ、彼らは千年の優しさに触れるたび、少しずつ警戒心を解き、お互いを支え合う親子へと歩み寄っていくのです。

 

遠山えま先生の描く“和の世界”

ヴァンパイア男子寮』『わたしに××しなさい!』で知られる遠山えま先生。前作『魔女メイドは女王の秘密を知っている。』では豪奢なドレスと洋の世界観に魅了されましたが、今作は打って変わって着物をまとった和風ファンタジー。ドレスから和装まで描きこなす画力の幅広さに驚かされます。

もちろん、琥太郎のイケメンぶりも見どころ。静かに千年を見守る眼差しや、ときおり見せる微笑みは破壊力抜群です。

そして、私が心惹かれるのは女性キャラクターたち。千年の健気な美しさはもちろん、姉・久遠の妖艶さはヒールでありながらも目を離せません。

『千年の花嫁』

 

家族になっていく物語の行方

琥太郎と3人の子どもたちと家族になった千年。まだ始まったばかりの物語ですが、この家族がどう絆を深めていくのか、そして千年と琥太郎の関係がどんな愛の形へと育っていくのか──想像するだけで胸が高鳴ります。

『千年の花嫁』

第1巻は、出会いと関係の始まりを丁寧に描きつつ、これから訪れる変化を予感させる内容。優しさと切なさが同居する世界観に、きっとあなたも心を掴まれるはずです。

(レビュアー:Micha)

千年の花嫁 1
著者:遠山えま
発売日:2025年07月
発行所:講談社
価格:792円(税込)
ISBNコード:9784065399132

※本記事は、講談社|今日のおすすめ(コミック)に2025年8月28日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。