「お付き合いのフリ」で隠したいもの
『僕らの好きはわりきれない』で描かれる「好き」の淡さがとても好きです。「そこのところ実際どうなの?」って突き詰めたい気持ちをグッとこらえて、ふわふわとあまい時間が流れていくのを味わっています。
ヒロインの“唯”は、好きになっちゃいけない人への気持ちで心臓が落ち着きません。
唯と、兄の“隼人”は、8年ぶりに再会しました。離婚した両親の復縁がきっかけで、また一緒に暮らすことになったんです。
ひさびさに見た隼人はものすごくかっこよく成長していて、何より自分にとても優しい。距離も近いし! だから唯はどうしても意識してしまうけれど、いやいや兄だし……と自分の胸のドキドキをなんとかかき消そうとしています。
隼人と同じ高校に編入した唯は、すぐに隼人の人気者っぷりを実感します。みんなが隼人を見ているし、そんな隼人が誰にも見せないような特別な笑顔で唯にだけ笑いかけてくれる。妹の特権!
唯は特別扱いされる立場だけど……?
そう、妹は兄の恋人にはなれません。『僕らの好きはわりきれない』は唯の独白がとても良いんです。「だめだだめだ」と軌道修正しようとしているのに、どうしても隼人を兄ではなく恋愛対象として見てしまう。
で、スマホで似たような人生相談をググってみたり。
このまま「好き」を育ててしまったら、せっかく復縁で再び一緒になれた家族がまたバラバラになっちゃう……?
そんな唯を救い出してくれるのは誰なんでしょう。
唯の恋心を知って、「付き合うフリ」で唯の気持ちがバレないようにカモフラージュしてくれる幼なじみ?
それとも、いつだって唯を深く守ってくれる隼人?
嘘の中に混ざった真実
唯は、隼人と8年ぶりの再会を果たしたのと同じタイミングで幼なじみの“律”とも再び出会います。当時は小っちゃくて引っ込み思案な男の子だったのに、背も伸びてかっこよくなって、今はとてもモテるらしい。
唯がいなかった8年間にいろいろあった模様。でも幼なじみの唯には、素直に「調子に乗っちゃってたんだよね」って言える。
そんな律だけが、ふとしたきっかけで、唯の秘密を知ることに。
このとき、律は何を思っていたんでしょう。
「じゃあさ」と壁ドンするまでのあいだに、律が何を考えていたのか、私はすごく知りたいです。だって、律が提案した「付き合うフリ」は、唯の気持ちをカモフラージュするだけのものに見えないから。フリにしてはあまりにリアルだから。
「慣れておかないとね」ってことでぐいぐい来るし、
「唯と付き合うことになった理由」なんていくらでも言えるし、
極めつきは、これ見よがしな彼氏ムーブ! 挑発的な律の笑みと隼人の真顔がまた最高。唯をめぐって巻き起こる隼人と律との緊張感がまた良いのです。
まるでけん制しあっているかのよう。くすぐったい! 妹だから? 幼なじみだから? でも、二人とも「唯を守りたい」気持ちは同じなんですよね。この作品の淡くてあまいところをグッと際立たせるスパイスです。
唯は、自分の恋心を否定しない律に次第に心を開いていきます。
唯と律が近づけば、唯の恋心はカモフラージュできるはず。でも、別の好きがあらわになる予感がします。「デザート」の恋愛マンガをこよなく愛する私としては、そこに期待してしまうわけです。
とくに1巻の律はあらゆる場面でサインを示しています。
律の胸の内にある嘘と真実が何なのか、隼人と唯の「兄と妹」の関係に変化は訪れるのか、そして3人の抱える「好き」がどう花開くのか、とっても期待しています!
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(レビュアー:花森リド)
僕らの好きはわりきれない(1)
著者:野切耀子
発売日:2023年4月
発行所:講談社
価格:528円(税込)
ISBN:9784065313275
※本記事は、講談社コミックプラスに2023年5月14日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。