各出版社を代表する雑誌の編集長によるリレー連載「編集長雑記」。
今回エッセイをお寄せいただいたのは、1995年に創刊し、「おフェロ」や「雌ガール」など、多くのトレンドワードを発信してきた「ar(アール)」編集長の足立春奈さんです。
現在、「ar」は雑誌のほかに、webマガジン「arweb(アールウェブ)」や、フェムテックサイト「mEdel(メデル)」など、誌面だけでは伝えきれない情報も発信しています。雑誌、WEBサイト、SNSとさまざまな媒体を統括する足立さんに、現代ならではの苦悩やこれからの展望などを綴っていただきました。
ar 2023年7月号
発売日:2023年6月12日
発行所:主婦と生活社
価格:700円(税込)
JANコード:4910114310734
紙からスマホへ 女性誌が変わったことと変わらなかったこと
令和の編集長は忙しい。
時間的な忙しさは、もちろんこれまでの編集長にもあられたと思います。そうではなくて、脳内が忙しいのです。今「ar」の世界観を体現するものは多岐にわたります。
雑誌のほかにWEBサイトを2つ、SNS4つを運営しており、その合間に本誌から発展させた写真集を作ったり、さらにその宣伝やイベント等もやっています。あえてWEBと雑誌の部署は分けていません。
「『arweb』の外部配信先からの流入PVは、前月比何パーセントでした」「リワード広告のCPM上がってます」みたいな堅めの会議の後に、「今月の表紙の色はぷるんとピンクか、うるちゅる水色か」といったような会話をすることは日常茶飯事。ちなみに“おフェロ”という言葉からもわかるとおり、「ar」編集部では抽象的かつ不思議な言葉が飛び交う頻度がとても高く、先日は「このページはえっちみボディなのか、うぶピンボディなのか」というテーマで1時間打ち合わせしていました。右脳と左脳を高速でいったりきたりしている状態です。
どうしてこうなったかといえば、やはり昨今の若者の情報源が大きく変わったことに起因しているのでしょう。
スマホ一つで何でもわかる世界。
“可愛い誌面”を追求していればよかった「ar」編集部の仕事は、ここ数年で大きく変わりました。どんなによいコンテンツを作っても届かなければ意味がなく、雑誌離れと言われて久しい20代を相手に情報を届けるとなれば、“スマホのお作法”を知ることはマストとなりました。
「Googleの検索流入を増やすには?」「Instagramのおすすめ欄に載るには?」数字と分析を繰り返します。いかに彼女たちのスマホ画面に「ar」がつくったコンテンツを登場させるか、数字が見込めるとなればインフルエンサーのインタビューや診断コンテンツなど、本誌ではあまり縁がなかったトピックスにも積極的に手を出します。特にInstagramは、絵文字一つまでこだわった細かな施策のおかげで、31万近くまでフォロワーを伸ばし、Z世代へ「ar」の世界観を届ける重要なツールとなっています。
一方で、私は「ar」のつくるコンテンツ力を信じています。
一つ一つの写真や言葉、デザインにかける手間に対してのある種のプライドのようなものが「ar」のスタッフと編集部員たちにはあると知っていますし、「私たちの読者が一番楽しみにしてくれているところ=生命線」であると思っています。
実際、LE SSERAFIMや指原莉乃さんなど、有名タレントが健康的でセクシーな“ar色”に染まった表紙は、大変な反響をいただきました。最近は、女性だけでなく山下智久さんや吉野北人さんなど男性タレントの特集も、とても楽しみにされている方が多いです。だから精一杯、“ぷるんとピンク”か、“うるちゅる水色”かを考えます。
ここまでまるでとてもスマートにやりきっているように書いてしまいましたが、実際はてんやわんやです。もう表紙のピンクはやめたと言っていたのに、次の月にはやっぱりピンクだと言ってみたり。ECを始めて月の売上げが900円だったこともありました。めまぐるしく移り変わる時代の中を手探りで進んでいるのが現状です。ただ、そうやって失敗と成功を繰り返し、少しずつ形になってきたようにも思います。
SNSやネットニュースで話題にして本誌の売上を立てる、本誌の世界観をウェブに落とし込んで広告を獲得する……。ぷるんとピンクも、外部配信先からのトラフィック数も、どちらも今の「ar」には必要不可欠なものなのです。
変わらないものと変わるものを織り交ぜながら、これからも「ar」は進化を続けていければと思っています。
令和の編集長は、忙しいけど楽しいです。
▶WEBマガジン「arweb(アールウェブ)」は こちら
▶フェムテックサイト「mEdel(メデル)」は こちら
▶Instagram(@ar_magazin)は こちら
主婦と生活社「ar」「arweb」編集長
足立春奈 ADACHI Haruna
2008年主婦と生活社に入社、「JUNON」編集部を経て2012年「ar」編集部へ。Webディレクターも経験しながら、2019年12月より社内最年少(当時)の同誌編集長に。一児の母。