「検索しても見つけられない本」の探し方
SNSや動画で話題なのに、どこにあるのかわからない。読んだらおもしろかったけど、これはなんていうジャンルなんだろう? キーワードがわからなければネット検索もできず、書店でも「文芸」や「文庫」といった大まかな表示だけでは探し出せない……。
そんな、探し方がわからない「いま気になる本」を、「ほんのひきだし」がナビゲート。ランキングや棚では出合えない本をまとめて紹介し、読者がジャンルやテーマをより具体的に知り、次の一冊へつなげられる新しい読書ガイドです。
今回のテーマは「モキュメンタリーホラー」
「モキュメンタリー」という言葉を聞いたことがありますか?
映画好きやホラーファンの間ではじわじわと話題になりつつあるこのジャンル。嘘か本当かわからない不気味さが特にミステリーやホラーと相性が良く、読み物としての「モキュメンタリーホラー」作品が増えています。
なぜ今モキュメンタリーが人気なの?
「モキュメンタリー」という言葉がどこから生まれたのか、起源は明らかではありません。「偽物の」を意味する英語「mock(モック)」と「事実に基づく、実録」を意味する「documentary(ドキュメンタリー)」を組み合わせた造語で、「フェイクドキュメンタリー」とも呼ばれています。そんな「モキュメンタリー」は、映画やテレビ番組、小説などのジャンルとして近年人気を集めています。
出版業界では2024年の年間ベストセラー第1位となった「変な家」シリーズのヒットが記憶に新しいのではないでしょうか。
- 変な家
- 著者:雨穴
- 発売日:2021年07月
- 発行所:飛鳥新社
- 価格:1,400円(税込)
- ISBNコード:9784864108454
「これは、ある家の間取りである。あなたは、この家の異常さが分かるだろうか。」
――そんな印象的な導入で始まる、不動産ミステリーを題材としたWEB記事コンテンツを原作に書籍化された作品で、2024年には映画化も果たしました。
その特性ゆえにSNSやYouTubeといったプラットフォームで拡散されやすく、Z世代を中心に熱狂的な広がりを見せた本作は、モキュメンタリーというジャンルの認知拡大に大きく貢献した一作といえるでしょう。
また、モキュメンタリーという言葉が広く知られる以前から、ジャンルの礎を築く名作ホラーは存在していました。
2003年に放送されたフェイクドキュメンタリー「放送禁止」シリーズの番組構成を手掛けた長江俊和さんによる「出版禁止」シリーズも根強い人気がある作品です。シリーズ1作目が発売されたのは10年以上前ですが、2025年4月には最新作『出版禁止 女優 真里亜』が発売されています。
- 出版禁止 女優 真里亜
- 著者:長江俊和
- 発売日:2025年04月
- 発行所:新潮社
- 価格:1,980円(税込)
- ISBNコード:9784103361756
- 出版禁止
- 著者:長江俊和
- 発売日:2017年03月
- 発行所:新潮社
- 価格:737円(税込)
- ISBNコード:9784101207414
「モキュメンタリーホラー」が読みたい! 書店で探すときのポイント
いざ「モキュメンタリーホラー小説を探したい!」と思っても、ジャンルとして棚に並んでいるわけではないので、どこから手をつければいいかわからない人も多いはず。
本記事では、「読んでみたいけど、どう探せばいいかわからない」。そんな方のために、書店での探し方もご紹介します。
探し方①
文芸棚じゃない!サブカルエッセイ棚を探せ
書店でモキュメンタリーホラーを探すコツは、まず「ホラー棚」だけを見ないこと。雨穴さんの『変な家』をはじめ、背筋さんの『近畿地方のある場所について』など、人気モキュメンタリー作品はそもそもSNS発の書籍化が多めです。こうした本は小説コーナーではなく、サブカルエッセイ棚やWEBライター本の近くに置かれていることが多いので要注意!
「見つからない……」と思ったら、一度エッセイ棚をのぞいてみてください。文芸棚の奥、海外文学コーナー、はたまたライトノベルや漫画の新刊台にも、名作が潜んでいるかもしれません。
探し方②
タイトルの“あるあるワード”で探す
モキュメンタリー作品は、「ドキュメンタリーを装う」演出がキモ。そのため、タイトルに【調査】【報告】【記録】【〜について】などのキーワードが入りがちです。店頭の検索機などで、「調査」「報告」「記録」といった単語で検索してみると、思わぬ掘り出し物に出合えるかもしれません。
探し方③
作家名で探すのも王道!
このジャンルに強い作家を覚えておくのも手です。モキュメンタリーホラーといえば、雨穴さん・背筋さん・梨さんなどなど、ジャンルを代表する作家名で探すのもおすすめ。好きな作家をきっかけにして、気になる作品を探してみてください。
さらに最近は、キャンペーンやフェアでテーマ別のホラー棚が作られることも多くなっています。何やら、モキュメンタリーホラーランキングコーナーを新設している書店があるとのうわさも。こちらは、現在も調査中です。
初めて読む人におすすめ! モキュメンタリーホラー作品紹介
私の友人が行方不明になりました。
●初週興行収入4億円突破の映画原作小説
- 近畿地方のある場所について
- 著者:背筋
- 発売日:2023年08月
- 発行所:KADOKAWA
- 価格:1,430円(税込)
- ISBNコード:9784047375840
情報をお持ちの方はご連絡ください
近畿地方のある場所にまつわる怪談を集めるうちに、恐ろしい事実が浮かび上がってきました。(KADOKAWA公式サイト『近畿地方のある場所について』より)
この文字列を、人間、動物、無機物、現象などの名前に採用すると、壊滅的な被害が出る
●「このホラーがすごい!2025年版」第6位の怪奇ホラー小説
- 右園死児報告
- 著者:真島文吉
- 発売日:2024年09月
- 発行所:KADOKAWA
- 価格:1,430円(税込)
- ISBNコード:9784047380455
右園死児案件が引き起こした現象の非公式調査報告書である
明治二十五年から続く政府、軍、捜査機関、探偵、一般人による非公式調査報告体系。右園死児という名の人物あるいは動物、無機物が規格外の現象の発端となることから、その原理の解明と対策を目的に発足した。(KADOKAWA公式サイト『右園死児報告』より)
「お客さんに言われたんですよ。盛り塩した方がいいよ。ここ、なんかいるからって」
●全国の書店員から集めた怪談をもとに執筆されたホラー小説
- 書店怪談
- 著者:岡崎隼人
- 発売日:2025年08月
- 発行所:講談社
- 価格:1,925円(税込)
- ISBNコード:9784065401569
小説家・岡崎隼人は最新作『だから殺し屋は小説を書けない。』を出版したことをきっかけに、書店員とよく話すようになった。ある日、地元・岡山市の新刊書店を訪れると、店長が盛り塩をしているのを目撃する。数週間後、岡崎は別の書店でサイン会を開くことになったが、そこでも奇妙な体験談が寄せられていることに気づく。
(講談社公式サイト『書店怪談』より)
「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」
●イヤミスの名手・芦沢央さんによる初のホラー短編集
- 火のないところに煙は
- 著者:芦沢央
- 発売日:2021年07月
- 発行所:新潮社
- 価格:693円(税込)
- ISBNコード:9784101014326
突然の依頼に、かつての凄惨な体験が作家の脳裏に浮かぶ。解けない謎、救えなかった友人、そこから逃げ出した自分。作家は、事件を小説にすることで解決を目論むが――。
(新潮社公式サイト『火のないところに煙は』より)
怨みを伴う死は「穢れ」となり、伝染し拡大する。
●竹内結子主演で2016年に映画化された名作
- 残穢
- 著者:小野不由美
- 発売日:2015年08月
- 発行所:新潮社
- 価格:781円(税込)
- ISBNコード:9784101240299
畳を擦る音が聞こえる、いるはずのない赤ん坊の泣き声がする、何かが床下を這い廻る気配が……。
だから、この家には人が居着かない。何の変哲もないマンションで起きる怪異を調べるうち、ある因縁が浮かび上がる。
迫りくる恐怖は、どこまでが真実なのか。(新潮社 小野不由美『残穢(ざんえ)』特設サイトより)
おわりに
「モキュメンタリーって、もう正直ちょっと飽きた……」。そう感じる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、形式に飽きたとしても、おもしろいホラーそのものの魅力はまだまだ尽きないのです。
たしかに、モキュメンタリー形式には特徴的な演出や定番の構成があり、似たような作品に見えることもあります。ですが、重要なのはどんな手法で恐怖を描くかという視点です。同じ見せ方に小さな変化が加わるだけでも、まだまだ楽しめるジャンルです。
そして、そんなさまざまなモキュメンタリーホラー小説を手に取り、読者のみなさんが広めていく行為こそ、その建付けを揺さぶるきっかけになるはずです。「これもおもしろいホラーだよ!」と思ったら、ぜひ「#現在も調査中です」のタグをつけて発信してください。
あなたの見つけた本が、このジャンルのおもしろさをさらに広めていく一冊になるかもしれません。