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コインロッカーに女性の左腕!女性刑事と遺体整復師が挑む猟奇的なパズル『骸の鍵』麻見和史 ※小説推理レビュー

『骸の鍵』麻見和史

コインロッカーから発見された女性の左腕。犯人の仕掛けたゲームに、女性刑事の城戸葉月が挑む。麻見和史の警察小説は、いつだって必読の面白さだ。

第16回鮎川哲也賞を、本格ミステリー『ヴェサリウスの柩』で受賞した麻見和史は、3作目の『石の繭』から警察小説に転身。これをシリーズ化して、警察小説の有力な書き手と目されるようになった。また、作品のテレビドラマ化率も高く、2018年の4月から6月にかけて放送された『未解決の女 警視庁文書捜査官』は好評を博した。そんな作者の最新作となる本書は、必読の面白さが保証された警察小説である。

 

東京の葛西駅近くのコインロッカーで、女性の左腕が発見された。ロックスミス(錠前師)と名乗る犯人は、ヒントとなるメッセージとコインロッカーの鍵を残している。どうやら、他の身体の断片も、コインロッカーに入れられているらしい。警視庁捜査一課の城戸葉月は、葛西署の若手刑事・沖田智宏と組んで、事件を追う。

 

一方、折口聡子という女性が、ウツロと名乗る人物によって、拉致された。身の危険を感じる聡子。ところが、優れたエンバーマー(遺体の修復などをする技術者)である彼女がウツロから命じられたのは、意外な仕事であった。

 

ストーリーは、葉月と聡子のパートを交互に描きながら進んでいく。葉月のパートは、よくできた警察小説だ。チームの潤滑油を心がけながら、過去の事件を引きずり、感情的になることのある葉月。祖母に育てられ、すぐに諺を口にする、素直な性格の沖田。キャラの立ったふたりがコンビを組み、猟奇的な事件に立ち向かう。謎々のようなロックスミスのメッセージを読み解き、身体の断片を発見していく展開を夢中になって読んだ。また、厳しい捜査を通じて成長していく、沖田の姿も気持ちいい。

 

そして聡子のパートだが、こちらはサスペンスというべきだろう。ウツロに命運を握られた状況で、ストックホルム症候群になりかけながら、自らの仕事を果たそうとする聡子がどうなるか、ハラハラしながら見守った。しかも意外な事実が次々に判明し、物語の興趣が増していく。ふたつのパートを絡ませながら、クライマックスへと向かっていくストーリーが、とにかく魅力的なのだ。

 

そして事件の真相だが、これには驚いた。葉月の推理だけでも凄いのに、すぐ後に違う事実が露見し、捜査が混沌に陥る。いったい何がどうなっているのか! 複雑極まりない事件の構図と意外な犯人が分かるまで、ページを繰る手が止まらない。警察小説ファンなら必読といいたくなる、快作なのだ。

 

骸の鍵
著者:麻見和史
発売日:2025年06月
発行所:双葉社
価格:957円(税込)
ISBNコード:9784575528534

 

双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」にて『骸の鍵』の試し読みが公開されています。

『骸の鍵』の試し読みはこちら

本書評は、2025年6月11日に文庫版が発売されたことにあたり、双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」2025年6月16日公開「ブックレビュー」より転載したものです。