「シュクレ」とは、フランス語で「甘い」や「砂糖入り」という意味で、スイーツの世界でよく使われます。
南華(なんか)つくる先生の『泣かないシュクレと甘いキス』は、まさにそんな“甘さ”が際立つBL作品。
だけど、ただ甘いだけでなく、切なさや過去の後悔も溶け込んでいて、絵もおしゃれ!! ゲームセンターでのキスシーンも、絵になるふたりです。
ある日、四ノ宮五(しのみやいつつ)が街を歩いているとき、偶然見かけたのが、製菓学校の同級生・七尾八尋(ななおやひろ)。
七尾は、製菓学校でトップを競い合うほどの才能の持ち主だったのに、突然学校を辞めて音信不通になっていたのです。
実は四ノ宮は、七尾に対してずっとライバル心を抱いていました。
四ノ宮は苦学生で、努力で成績優秀者となったものの、現在は小さな洋菓子店でホールや補助をやる程度。この業界にギリギリで踏みとどまっている状態なのです。
それに比べ、七尾は両親も製菓業という恵まれた環境で育った天才肌。しかも明るい人気者。
そんな七尾が、なぜ製菓学校を突然辞めてしまったのか――。
久々の再会に「飯でもいこーよ」となるふたり。けれど店はどこもいっぱいで、結局七尾の家での“宅飲み”に。
BL作品ではおなじみの“相手の家に行く”展開ですが、本作ではこの流れがとても自然。しかも、手料理ではなくコンビニ飯というリアルさも、好感が持てます。
そして、初めて明かされる七尾が製菓学校を辞めた理由。
実は七尾は、小麦粉に触ることができない「接触性アレルギー」だったのです。
それまでクールで、どこかオラオラ系の“攻め”に見えた四ノ宮が、意地を張らずにもっと七尾の悩みに寄り添えていたら……と、過去の自分を悔やみます。
男同士、“宅飲み”で座布団を枕に並んでゴロン。なんてことない日常風景から、キスへとつながっていく描写も絶妙です。
というのも、ただ「好きだから」キスをしたわけではないのです。
その体質も
風邪みたいに
うつして治せば
いいだろ
この四ノ宮のセリフに、「そう来たか!!」と唸ってしまいました。相手のすべてを引き受ける、覚悟のような愛を感じて。
まさにタイトル通りの「甘いキス」です。
しかも、これが第1話から登場するのです。
早い段階でキスシーンが出てくると、関係が一気に進みがちですが、本作ではここからのふたりがとても可愛い。
酒のせいにして「なかったことにしよう」と考えたり、次に会うのが気まずくて悩んだり。
そうかと思えば、急に小悪魔モードになる四ノ宮もいて、七尾が戸惑うのも当然です(笑)。
だって四ノ宮、美しいんですもん!!
仕事中は髪を後ろで結び、七尾とイチャつくときは髪を下ろしてる(笑)。
さらに、七尾と出会ったことで前向きになった四ノ宮は、パティシエの国家資格・製菓製造技能士一級を取るための試験に挑み、新店舗を任されることに。
そのときの彼は、まるでこれまでの自分と決別したかのような清(すが)しさなのです。
穏やかに、だけど確実にふたりの距離が近づいていき、ますます甘い展開に……と思ったら、「第三の男」現る!!
しかも、四ノ宮や七尾とは違うタイプのイケメン!!
七尾君、そんな可愛い顔をして、一体君にはどんな過去があったんだぃ!?と、四ノ宮でなくとも言いたくなります(笑)。
BLマンガを読むとき、お話は好きだけど絵の好みが合わなくて、ちょっと残念ということがあります。私としては、綺麗な男の子が見たいので。
そういう意味でも、この『泣かないシュクレと甘いキス』は、読者の期待を裏切らない作品だと思いました。
*
(レビュアー:黒田順子)
- 泣かないシュクレと甘いキス 1
- 著者:南華つくる
- 発売日:2025年05月
- 発行所:講談社
- 価格:825円(税込)
- ISBNコード:9784065395110
※本記事は、講談社|今日のおすすめ(コミック)に2025年7月8日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。