囚人にも看守にも、過去がある、秘密がある──。民営の刑務所という閉鎖状況を舞台に描かれる極限のドラマ!鬼才の初期傑作、待望の初文庫化!
織守きょうやは2012年に講談社BOX新人賞Powersを、15年に日本ホラー小説大賞読者賞を、それぞれ受賞しているが、いずれもホラー作品だったため、ミステリ読者に発見されるのが、やや遅れてしまったように見える。だが、その作風は初期から「人間関係の意外性」に焦点を当てたものが多く、ミステリ要素が濃厚であった。
新米弁護士の木村とベテラン弁護士の高塚が探偵役を務める『黒野葉月は鳥籠で眠らない』(双葉文庫)以降、本格的にミステリに進出し、2021年の『幻視者の曇り空』(二見書房)、『花束は毒』(文藝春秋)の2作で、一気に注目を集めた。
今回、「囚人と看守の輪舞曲(ロンド)」という副題を新たに付して初めて文庫化された本書は、2014年に講談社BOXから刊行された著者の第3作。刑務所の業務の一部が民間に委託された世界を舞台にしているが、SFやホラーの要素のない濃密なサスペンス長篇である。
新米刑務官の河合凪は姉が父を刺殺したという過去がある。古株の受刑者・阿久津真哉は妹をひき殺した学生を殺した。夜ごと俺は無実だと叫ぶ囚人・笹部。強盗殺人の無期懲役囚・赤崎。先輩看守の北田。女医の西門。彼らにとって、刑務所とはシェルター(避難所)なのか?それともケイジ(檻)なのか?
いうまでもなく刑務所は一般の人間社会から隔絶された閉鎖環境である。人間は社会的な動物であるがゆえに、社会から切り離すことが刑罰になるのだ。
だが、隔離された刑務所も、またひとつの小さな社会であり、そこにはさまざまな関係性が存在する。「看守と囚人」「被害者と加害者」「弁護士と加害者」……。「看守の中ではいちばん新米の凪」や「囚人なのに自由にふるまう阿久津」のように、その立場は必ずしも一定ではない。
そして副題が示す通り、輪舞形式で次々と登場する面々が織り成すドラマは、最後に意外な結末を迎えることになるのだ──。
本書には奇抜なトリックはないが、隠されていた真相が明らかになる瞬間の驚きに満ちている。その意味で第1級のミステリであることは間違いない。
なお、本書は高塚弁護士の初登場作品である。つまり木村&高塚弁護士シリーズは、本書のスピンオフということになる。シリーズ未読の方にも既読の方にも、ぜひ手に取っていただきたいと思う。
SHELTER/CAGE 囚人と看守の輪舞曲
著者:織守きょうや
発売日:2023年3月
発行所:双葉社
価格:836円(税込)
ISBN:9784575526509
「小説推理」(双葉社)2023年5月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載