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“おみやげ算”をマスターすれば2ケタ暗算が誰でもできる!小学生がたった1日でできる、その秘密とは?

2023年上半期ベストセラー第3位にランクインした、『小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本』。2022年12月の発売から順調に版を重ね、6月1日現在、累計発行部数は41万部となっています。

「おみやげ算」という計算方法で、2ケタ(19×19まで)のかけ算が小学生でも1日で習得できるという本書。その内容とヒットの秘密について、編集を担当したダイヤモンド社書籍編集局第一編集部の吉田瑞希さんにお聞きしました。

 

〉2023年 上半期ベストセラーはこちら

 

小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本
著者:小杉拓也
発売日:2022年12月
発行所:ダイヤモンド社
価格:1,100円(税込)
ISBN:9784478116562

 

ダイヤモンド社 書籍編集局 第一編集部
吉田瑞希さん

 

「学参売場から話題書へ」がヒットの足がかりに

――学参ジャンルの書籍が、ここまで総合ランキングの上位にランクインするケースはあまりないかと思います。吉田さんは、本書がここまでヒットすると予想されていましたか?

まったく予想していなかったです(笑)。

学習参考書は、新年度に向けた春休みや、夏休みといった長期休暇を中心に、毎年版を重ねるものがロングセラーとして残っていくと捉えていました。本書は2022年12月の発売から、約5か月で累計発行部数が41万部になっているのですが、この短期間でここまでの部数になるとは想像していませんでした。

――発売1か月半で11万部を超えるという、初速の良さも際立っていましたね。売上が爆発的に伸びた要因は。

発売当初は、教育書や子育て本の販売力がある書店さんで反応がありました。リアル書店さんでの売行きが良かったため、書店さんとともに弊社の営業部でも動いてくれて、学習参考書の売場から話題書のコーナーに移動してもらった瞬間、大きく数字が伸びました。

私はもともと書店営業を4年間担当しており、話題書コーナーに置いていただくと途端に売上が伸びることはそれまでもありました。しかし、この本に関しては、これまであまり経験したことのない伸び方で驚きました。

 

 

▲話題書として、学参売場に行かないお客様も目にする場所で展開されることで、大きく購買層が広がった(写真:紀伊國屋書店玉川高島屋店)

 

▲問題を出すことで、答えと解き方が気になるお客様が思わず足を止めてしまう展開に(写真:ブックスタジオ大阪店)

 

“突飛”な本だからこそ「何ができるのか」をわかりやすく

――本書はどういった経緯で企画されたのですか?

もともと著者の小杉拓也先生は、『この1冊で一気におさらい! 小中学校9年分の算数・数学がわかる本』『ビジネスで差がつく計算力の鍛え方』という2冊を弊社から出版されていました。次の企画として、小杉先生から『19×19までかんぺきに暗算できる本』という企画はどうですかとご提案いただいたことがきっかけです。

実際に内容を伺ってみると、知らないことばかりで本当におもしろかったので、ぜひ本にしたいとお返事しました。ただ、弊社はビジネス書を主に出している出版社で学習参考書はほとんど出したことがなく、私も担当するのは初めてでしたので、まずは調査のため、書店さんをたくさん回ってみました。

ビジネス書と比べると学習参考書は棚が限られていますし、シリーズものが多いですよね。本書は小学生向けの算数の本になりますが、いわば突飛なところのある本なので、売場にポンと置いてあってもどういう本なのかがわかりづらいと思いました。

そこで先生に、「この計算は1日でマスターできますか」とお聞きしたら、「できます」とお返事をいただいたので、棚に入ってしまったとしても「この本で何ができるようになるのか」が一目でわかるタイトルにしようと思いました。

――表紙の文字も、「小学生がたった1日で」「19×19まで」「暗算」といったキーワードが目に飛び込んでくるデザインですね。

表紙については、子ども自身が楽しいと思えるデザインにしたいなと考えていました。私が書店さんに伺っていたときに、たまたま小学生の男の子を連れたお母さんが買い物にいらしていたのですが、その子が欲しいと言った本を、即座にお求めになったんです。

その場面を見て、子どもの勉強をやりたいという言葉は、親御さんにとって、やはりうれしいものなのだなと思いました。

親戚の小学生やその親に意見を聞いてみても、「楽しそうな表紙がいい」「ハードルが低めで勉強感がないものがいい」という意見が圧倒的に多かったです。そこで、蛍光色を使って独特の色味にするなど、少しでも興味を持ってもらえるよう、子どもに手に取ってもらいやすい、おもしろみのある表紙を目指しました。

――「この本にはすごいがいっぱい!!」のページも、“おみやげ算”をマスターするとどうなれるかがイメージできて、前向きに取り組めそうです。

このページはこちらから小杉先生にご提案しました。

この本のどこがすごいのか、「この本が存在する理由」を最初に示すことも大事だと考えました。

▲p.4~5の「この本にはすごいがいっぱい!!」のページには、「算数の得点力がアップする」「算数が得意になる」など、「マスター後の自分」がイメージしやすい文言が並ぶ

 

スモールステップを積み重ねることで、誰でも、かんぺきにマスターできる

――本書は、2ケタの暗算ができる、“おみやげ算”の習得にしぼった内容であることも特徴ですね。「じゅんびうんどう」や「小テスト」が充実していて、十分に練習ができる構成です。

大人の方には練習問題が若干多く感じられるかもしれません。しかし、簡単なところからスタートして、繰り返し練習する、そのスモールステップを重ねているところが結果的に今の部数になった大きな要因ではないかと考えています。


▲おみやげ算の前には、「じゅんびうんどう」としてさくらんぼ計算をマスター

 

——小杉先生は、家庭教師や個別指導塾の講師として20年以上にわたって指導を続けていらっしゃるそうですが、そのご経験が活かされていると感じました。

まさに、小杉先生がこれまでの指導経験から子どもたちのことを真剣に考えて作ってくださいました。子どもはひとつでもわからないことがあるとつらい思いをしますし、そこでつまずいたら算数嫌いになってしまうこともあることから、本書はどの子も「わかる」「できる」を積み重ねていける構成になっています。

また、デザイン面でも「子どもはもう少し文字が大きいほうが見やすい、書きやすい」といった細かいところまでアドバイスいただき、徹底的な子どもファーストで制作してくださいました。

——読者の方の反応はいかがですか?

実際に、「子どもがちょっとつまずいてしまっても、数ページ戻ってやり直すことで、またできるようになった」と感想をくださった方がいらっしゃいます。

一方で、算数が得意なお子さんは、1日どころか30分でできるようになったというコメントも見かけます。その子のレベルにあわせて、スキップしたり、戻って何度も繰り返したり、自分のペースで無理なくマスターできるのも喜ばれているポイントだと考えています。

――計算している最中は、なぜこの方法で2ケタのかけ算が解けるのか疑問だったのですが、最後の“たねあかし”でようやく理解できました。

小杉先生も、やり方だけ教えて「なぜこうなるのか」という理由を示さないと、学習参考書として納得感や満足感が下がると当初からおっしゃっていました。

理解が難しい場合は、おとうさん、おかあさんと調べることもおすすめしています。親御さんがお子さんに教えるときのためのコラムも充実させていますので、ぜひ親子で一緒に取り組んでいただければと思います。

▲これが2ケタの暗算、名付けて“おみやげ算”の計算方法。その“たねあかし”は本書で確認を

 

脳トレとして活用する人も!家族一緒に楽しんでほしい

――小杉先生からは、今回のランクインにあたり、「多くの小学生の計算力を上げることに寄与できてうれしいです。この本で、算数や計算を好きになる生徒が一人でも増えるとありがたいです」というコメントをいただいています。そんな子どもファーストで作られた本書が、ここまで幅広い層に届いていることも驚きですね。

実は、弊社にいただくご感想やお問い合わせは60代後半から70代の方がほとんどで、脳のトレーニングのために買ったという方が多くいらっしゃいます。

この年齢でいままで知らなかった新しい計算方法を知ることができた。しかもそれがたった1日でできるようになってうれしい」「自分の孫に教えたいのだけれど、どういう教え方をしたらいいですか」といったお問い合わせや、「もっと問題を解きたい」というリクエストもいただきます。

この本を通して、大人の方からも「算数が少しだけ好きになった」「もっと早く知りたかった」という声をいただくことが多いので、本書に取り組んでいただくことで、計算の苦手意識が下がったり、算数も楽しいなと思ってもらえたりしたらうれしいですね。

――「もっと解きたい」という要望に応えるご計画はおありですか?

時期は未定なのですが、続編を計画していますので、楽しみにお待ちください。

――これから夏休みに向けて、親子で、またお孫さんと一緒になど、家族みんなで楽しめるシーンもありそうですね。

お父さんが仕事から帰ってきたときに、お子さんが自慢げに暗算をしてみせて、お父さんをびっくりさせたというお声もありました。「親ができないことを自分ができた」というのも、子どもにとってはすごくうれしいことだと思います。

そういう経験ができる、家族みんなでできる遊びの一つとしても、使っていただけたらうれしいですね。

 

【『小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本』の世代別購入者】(日販調べ)


▲購入者全体の約4割が65歳以上の高齢者。子育て世代である40代以上、70代までがボリュームゾーンとなっており、「頭の体操にも効果的」「物忘れが心配なので、予防のために使っている」という声も多い。

 

著者プロフィール
小杉拓也(こすぎ・たくや)
東京大学経済学部卒。プロ算数講師。志進ゼミナール塾長。
プロ家庭教師、SAPIXグループの個別指導塾の塾講師など20年以上の豊富な指導経験があり、常にキャンセル待ちの出る人気講師として活躍している。
現在は、学習塾「志進ゼミナール」を運営し、小学生から高校生に指導を行っている。毎年難関校に合格者を輩出している。算数が苦手な生徒の偏差値を45から65に上げて第一志望校に合格させるなど、着実に学力を伸ばす指導に定評がある。暗算法の開発や研究にも力を入れている。
ずっと算数や数学を得意にしていたわけではなく、中学3年生の試験では、学年で下から3番目の成績だった。数学の難しい問題集を解いても成績が上がらなかったので、教科書を使って基礎固めに力を入れたところ、成績が伸び始める。その後、急激に成績が伸び、塾にほとんど通わず、東大と早稲田大の現役合格を達成する。この経験から、「基本に立ち返って、深く学習することの大切さ」を学び、それを日々の生徒の指導に活かしている。
著書は『ビジネスで差がつく計算力の鍛え方』『この1冊で一気におさらい! 小中学校9年分の算数・数学がわかる本』(ともにダイヤモンド社)、『改訂版 小学校6年間の算数が1冊でしっかりわかる本』(かんき出版)、『増補改訂版 小学校6年分の算数が教えられるほどよくわかる』(ベレ出版)など多数。