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合言葉は「小説を、もっとカジュアルに」。大反響の新文芸誌『GOAT』|【連載】編集長雑記

GOAT

各出版社を代表する雑誌の編集長によるリレー連載「編集長雑記」。

今回は、昨年11月に発売された創刊号が4刷・累計発行部数5万部と、文芸誌として異例ともいえるヒットを記録。6月4日に発売された第2号もこのほど3刷と版を重ね、累計4万5,000部と勢いが止まらない、『GOAT』の編集長・三橋薫さんのご登場です。

紙を愛してやまない「ヤギ」にちなんで名づけられたという『GOAT』。紙媒体の魅力を活かした展開で売行きを伸ばしているだけでなく、誌面と連動した企画で読者を楽しませつつ、サステナブルな誌面づくりなどなどさまざまな取り組みを行っています。今回は、新たな文芸誌として躍進を続ける『GOAT』の創刊から今後の展開まで、小説への思いとともに三橋編集長に綴っていただきました。

▼『GOAT』最新号はこちら

GOAT Summer 2025
著者:朝井リョウ 一穂ミチ 野崎まど
発売日:2025年06月
発行所:小学館
価格:510円(税込)
ISBNコード:9784098021093

 

とびきりのサプライズとともに「かつてない紙の文芸誌」を届けたい

昨年の秋、新しい紙の文芸誌『GOAT』を創刊しました。誌名の由来は、紙を愛してやまない《ヤギ》と、《Greatest Of All Time(=史上最高の)》の頭文字から。「かつてない紙の文芸誌を作りたい」という気持ちを込めています。エンタメと純文学、国境などの線引きは一切なし。純粋に「面白い!」と思ってもらえるような小説をジャンルレスに掲載しています。

『GOAT』の誕生のきっかけは、2023年秋に文芸誌『STORY BOX』がWEB化して、小学館に紙の文芸誌がなくなったこと。作家さんたちは「時流だから仕方ないね」とご理解くださったものの、皆さん寂しい気持ちを抱えていらっしゃるようでした。そんな状況の中で、「もう一度、紙の文芸誌に挑戦してみたい」という声が編集部内から上がり、有志で立ち上げた企画です。

合言葉は「小説を、もっとカジュアルに」。一般の人にはなかなか手に取りづらい文芸誌特有の堅苦しさを払拭し、コンテンツもデザインも親しみやすいものにしています。表紙にいるのは“物語が大好物”のゴートくん。SNSやショートアニメーションでも大活躍で、販促物として作った栞も可愛いと人気です。500ページ超の大ボリュームながら、定価は『GOAT』の名にちなんで510円(税込)に。

このような工夫が奏功し、第1号は発売日に完売する書店が続出し、緊急重版がかかりました。文芸誌としては多めの初版1万部からスタートして現在5刷5万1,000部、6月に刊行した第2号は初版3万部で現在3刷4万5,000部となっています。発売日には、執筆陣や書店員の皆さんが「こんな文芸誌を待っていた!」と熱いコメントを寄せてくださり、SNSがお祭り状態に。反響は口コミで広がりました。「文芸誌を初めて買った」「ファッション誌を買ったついでに可愛いから買ってみた」というような声が多く、何よりも嬉しく感じています。コアな文芸ファンはもちろんのこと、小説に興味はあるけれどハードルが高いと感じてきた人、仕事や育児が忙しくて読書から遠ざかってしまった人などにも気軽に楽しんでいただけたらと思っています。

「所有したい」と思ってもらえるように、デザインには全力でエネルギーを注いでおり、資材にも徹底的にこだわっています。第1号では、本文にピンクとブルーの色上質紙をグラデーションにして使用。第2号の「悪」特集では、“究極の黒い紙”といわれる「NTラシャ漆黒」を採用し、この紙にインスパイアされて朝井リョウさんが掌編を書いてくださいました。第2号の本文の「スノークイーン」は通常、包装紙などに使われている紙ですが、大王製紙さんに相談して特別にご用意いただきました。

GOAT2

▲『GOAT』第1号(左)、第2号(右)ともに、本文の紙色がきれいなグラデーションになっている

 

また、この時代に紙の文芸誌を出す、ということの意義を考え、サステナブルであることも大きなテーマにしています。製造残滓を紙の原料として再利用する「Rems」(リムス)を本文用紙の一部として採用しており、第1号の「愛と再生」をテーマにした詩のページには“米のもみ殻”から再生した紙を使用。本誌に初版限定で挟み込んでいるチラシには、小学館社内で作っている使用済みのコピー用紙から再生した紙を使用しています。

GOATチラシ2面2

▲初版限定の4つ折りの挟み込みチラシ「GOAT  NEWS」には『GOAT』の最新情報を掲載

 

文芸の世界を外に開いていくために、さまざまなコラボも行っています。ソニー・ミュージックエンタテインメントが運営する小説投稿サイト「monogatary.com」と組んで、「GOAT×monogatary.com文学賞」という文学賞を創設し、加藤シゲアキさんに選考委員長を務めていただいています。神保町と京都にある「BOOK HOTEL」とのコラボでは、作家たちに宿泊して書いていただいた作品を誌面に掲載し、ゴートくんをモチーフにしたスペシャルルームも準備中です。文具メーカーと組んでオリジナル文房具の開発も行っています。

「活字離れ」「出版不況」などと言われ始めて久しいですが、憂えていても仕方がありません。「小説ってこんなに面白かったんだ!」と言ってくださる方が一人でも増えるように、毎号、とびきりのサプライズをお届けしていきたいと思っています。旅や音楽のように、気負わずリラックスして小説を楽しんでいただけたら嬉しいです。


小学館『GOAT』編集長
三橋薫 MITSUHASHI Kaoru
2006年小学館に入社。2021年より文芸誌『STORY BOX』編集長をつとめる。2024年より『GOAT』編集長を兼務。