全国の書店員さんが、もっともお勧めの本を紹介する連載「わが店のイチオシ本」。
第49回は、鳥取県米子市にあるカニジルブックストアの鈴村ふみさんのご登場です。
店長であり、小説すばる新人賞の受賞作家でもある鈴村さん。今回は自著である、角界の裏方「呼出」にスポットを当てた青年の成長物語『櫓太鼓がきこえる』をご紹介いただきました。
櫓太鼓がきこえる
著者:鈴村ふみ
発売日:2021年2月
発行所:集英社
価格:1,760円(税込)
ISBN:9784087717440
イチオシ本の著者は店長!小説すばる新人賞を受賞した成長物語
思わず二度見してしまう店名の通り、うちは少し変わった書店かもしれません。
一番変わっているのは、本のラインアップです。町の書店でよく見かける、漫画や雑誌などは置いていません。話題の新刊やベストセラー本も、ほとんどありません。それもそのはず。作家や編集者、ジャーナリストなど、さまざまな方がおすすめする本を集めた、セレクト書店だからです。いわば、どれも「イチオシ本」。何を紹介するか、非常に悩みました。
その中で選んだのは、鈴村ふみ著『櫓太鼓がきこえる』です。実はこちら、他でもない私が書いた本なのです。ただの宣伝かよ!とお思いになった方。大変恐縮ですが、もう少々お付き合いくださいませ。
内容を簡単に説明すると、新米の呼出(力士の四股名を呼び上げる人)として角界に飛びこんだ少年・篤が、周囲に刺激され、成長していく物語です。
そんな話を書いたことからもお分かりだと思いますが、私は大相撲がとても好きです。普段は口数が少ないくせに、大相撲のことだったら一時間でも二時間でも喋っていられます。
とはいえ、私が目指したのはあくまでもエンターテインメント小説。「好き!」を詰め込みすぎてマニアックな話にならないよう、充分気をつけました。おかげで、あまりなじみのない職業が題材であっても、普遍的な物語になっているのではないかと思います。
たとえば、第一章の秋場所。篤は大きな失敗をしでかします。自分の不甲斐なさに落ち込みそうになったとき、所属する部屋の師匠から呼び出され、こんな言葉をかけられます。
「呼出のお前には心技体の体はまあ、そんなに関係ないけれど、それでも心が大事ってのは力士と変わんねえぞ。自分の仕事をしっかりやろうと思わなければ、いつまでたっても半人前のままだ」
これは「呼出」を他の職業に置き換えても、同じことが言えるのではないでしょうか。実際、私もそうでした。この台詞を読み返したときに、自分はまだまだ甘いな、「心」を大事にできていないな、と気づかされました。
もちろん、何もかも精神論で解決できるわけではありません。ですが、少なくとも私はこの物語に救われました。
今は作家としても書店員としても「半人前」ですが、篤のように日々成長していけたらと思っています。
仕事で躓きそうになったときや目標を見失いそうになったとき、ぜひ本書をお手に取っていただけたら幸いです。
その際にはどうか、あなたの背中を押す一冊となりますように。
◆作り手からのメッセージ◆
店長で作者でもある鈴村ふみさんの言葉にもあるように、初めて社会に飛び出した若者の成長過程を描いた、お仕事小説です。角界の裏方「呼出」という職業を知ることもでき、また昨年度、多くの高校で入試問題に採用された作品です。お子様を持つ親御さんにもぜひ読んでいただきたい一冊です。
(集英社 文芸編集部 古川峰子さんより)
カニジルブックストア(Tel. 0859-21-2755) 〒683-8504 鳥取県米子市西町36-1 鳥取大学医学部附属病院1F
(「日販通信」2022年5月号「わが店のイチオシ本」より転載)
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