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DNA鑑定が示す犯人は本当…?! 氏家京太郎が親友の無罪のために奔走する! |『氏家京太郎、奔る』中山七里

氏家京太郎、奔る

民間の科学捜査鑑定所の所長・氏家京太郎は、殺人容疑で逮捕された親友の無罪を証明できるのか。中山七里の「鑑定人」シリーズ、待望の第二弾だ。

民間の科学捜査鑑定所〈氏家鑑定センター〉の所長・氏家京太郎が活躍する「鑑定人」シリーズの第二弾が刊行された。今回、氏家が扱うのは、ゴミ屋敷と化したアパートの一室で、天才ゲームクリエイターの九十九孝輔が殺された事件だ。ゲーム会社〈レッドノーズ〉を辞めてから、引き籠り生活をしていた九十九。発見されたときは、ほとんど白骨化していたが、死体には撲殺された形跡があった。

被害者の部屋にあったティッシュペーパーに付着した体液を、科学捜査研究所(科捜研)が分析したところ、九十九の元同僚の御笠徹二のDNAと一致。御笠は殺人容疑で逮捕された。御笠を親友だという氏家は、彼の力になるべく奔走する。

本書の最初の衝撃は、氏家に親友がいたという事実だ。思考がクレバー過ぎて、他人とぶつかることが多い。古巣の科捜研では、過去の因縁と、所員の引き抜きによって、蛇蝎のごとく嫌われている。氏家京太郎とは、なかなか付き合うのが難しい人間なのである。それが親友と呼ぶ相手がいたとは、ビックリ仰天だ。

しかし氏家と御笠の高校時代のエピソードを読んで、大いに納得した。もともとクレバーな性格の氏家だが、このエピソードにより、彼の人格形成の一端を知ることができたのである。その時、氏家と共に御笠が、ある悲劇に立ち向かっていたのだ。氏家が御笠を親友という理由は、ここにある。シリーズ第二弾にして作者は、主人公のキャラクターを一段深く掘り下げ、人間的な魅力を強めたのだ。

一方の事件だが、肝心の証拠物件であるティッシュペーパーを、なかなか調べることができない。さらに、ようやく入手できたと思ったら、科捜研の嫌がらせにより、体液の付いた部分がなかった。苦しい状況で裁判が進み、本のページ数はどんどん減っていく。いったいどうなってしまうのかとハラハラしたら、終盤で驚愕の展開が待ち構えていた。えええ、あれほど明確な伏線を見落としていたとは不覚。でも、作者の書き方が巧くて、読んでいるときは、まったく気づかなかった。この驚きと悔しさこそ、ミステリーの醍醐味である。

なお本書には、『特殊清掃人』の五百旗頭や、『祝祭のハングマン』の鳥海秋彦も脇役として登場。プロフェッショナルぶりを見せつける。他シリーズの御子柴弁護士の名前も出てきた。こうした物語世界のクロスオーバーも、中山作品の楽しみなのだ。

氏家京太郎、奔る
著者:中山七里
発売日:2025年03月
発行所:双葉社
価格:1,870円(税込)
ISBNコード:9784575248050

『小説推理』(双葉社)2025年5月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載

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