全国の書店員さんが、もっともおすすめの本を紹介する連載「わが店のイチオシ本」。
第73回は、愛知県豊山町にある紀伊國屋書店名古屋空港店の文学担当、土屋彩乃さんのご登場です。
今回、土屋さんが紹介してくださるのは、“休み方の処方箋”ともいえるエッセイ・アンソロジー『休むヒント。』です。多様な執筆者によるアンソロジーだからこそ、さまざまな“気づき”があったという土屋さん。ご自身の休み方を振り返りながら、どのような発見があったのか、ハッとしたという言葉とともにご紹介いただきました。
『休むヒント。』
編:群像編集部
発売日:2024年4月
発行所:講談社
価格:1,430円(税込)
ISBN:9784065350683
“休み方”に迷ったら読んでほしいエッセイ・アンソロジー
この本は、33名の豪華執筆者による、「休み」をどう過ごしているのか、「休み」についてどのような考えを持っているのかをテーマにしたエッセイ・アンソロジーです。
私は小説や漫画など物語が好きなので普段エッセイはあまり読みませんが、多忙な作家さん(ほかに声優さんや漫画家さんなど豪華な執筆者の方々)はどんな「休み」を過ごしているのかに興味がありこの本を手に取りました。
まずこの本を読み終わって気づかされたことは、「休み方は人それぞれであり、正解はないから無理しなくてよいのだ!」ということです。これは、「休みだからといって特別に何かをしなければならない、休みだからってダラダラしていたら駄目」、という考え方はやめてよいのだということです。
「そんなの当たり前じゃん」と思う人もいるかもしれません。
私は書店員なので多忙な執筆者の方々のような変則的な休みではなく、きっちり週2日休みがあります。そして私はその2日を「無駄にしてはいけない! 何かしなければ!」と考えてしまうのです。一日何もせずダラダラしてしまうこともありますが、そんなだらしない自分を許せず罪悪感を覚えてしまい、「あれの勉強をしよう」とか、「これを終わらす」とかとにかく休みを無駄にしたくなくて、休みの日はすぐに「やることリスト」を作ってしまいます。罪悪感も嫌だけど、でも逆にやらなきゃ!も気が重い。そこで疲労を感じて「これって休息って言えるのか?」と思ってしまうのです。
そんな考えを変えてくれたのがこの『休むヒント。』です。33名が執筆されているので当然人それぞれですし、共感できるものもできないものもあります。特に私が共感した言葉は、石井ゆかりさんの「こんなに『頑張って休む』ことをして、果たして『休んだ』ことになるのか」と、向坂くじらさんの「結局、『がんばる』ことをしようとしている時点で、すでに何かがずれている気がする」です。そうか、休みであっても、私は大なり小なり何かを頑張ろうとしているのだな、と膝を打ちました。
一方、斉藤壮馬さんの「時間を自分の意思で自由に使えるというのは、なんと贅沢なことでしょう」。この文章にもハッとさせられました。
頑張ることは間違いではない。休みなのに何かを頑張って疲れてしまっても、私は自分の意思でやりたいことをしようとしている。ただそれだけで私は休みを満喫できているのかもしれません。もちろん、ただダラダラしているのも間違いではない。結局正解はないのですね。
休み方に迷ったらぜひこの本を読んでみてほしいです。
また、アンソロジーは、読んでみて共感したりお気に入りの文章が見つかれば、その執筆者の小説やエッセイをあらためて読んでみようかなという気持ちにもなって、新しい本との出会いのきっかけにもなるのでおすすめです。
◆作り手からのメッセージ◆
「休みの日、何してるの?」と聞かれるのが苦手で、なら他の人がどんな風に休んでいるのか聞いちゃおう!とスタートした一冊です。作家、学者、声優、クイズプレイヤーと33名から届いた「休み」の捉え方は目から鱗の連続! 十人十色な休み方を覗き見して、ご自身の休日を見つめなおしてみませんか?
(講談社 文芸第一出版部 中谷洋基さんより)
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