ネットに寄せられた奇妙な事件の話。
関係者の話を聞いた男が推理を披露すると、その様相は一変し、隠れていた「鬼」が姿を現す。
企みに満ちた新鋭の連作!
木江恭は、2017年の第39回小説推理新人賞で奨励賞を受賞してデビューした新鋭。既に受賞作を含む短篇集『深淵の怪物』を刊行して高い評価を得ているだけでなく、2020年には日本推理作家協会賞短編部門の候補にもなっており、そのテクニシャンぶりが注目されている。2022年、「小説推理」に発表された連作4篇をまとめた本書は、そんな著者の第2作品集である。
フリーライターの霧島が「現代の都市伝説」特集のために実施したアンケートは、「あなたの体験した『鬼』の話を百字以内で聞かせてください」という奇妙なものだったが、不思議を経験した人からの投稿は意外と多かった。
霧島の代理で投稿者や事件関係者の話を聞きに来た写真家の桧山は、証言の中に散りばめられたデータを意外な形でつなぎ合わせ、「こうだったかもしれない」事件の真相を暴き出していく──。
妹尾明良は子供のころ母に連れられて初めて祖父の家を訪ねた。母と折り合いの悪かった祖父は、その夜、納戸で首を吊って死んだが、明良は夜の庭で祖父の部屋に映る人影を見てしまっていた・・・・・・。(「影踏み鬼」)
かつて街じゅうにカラースプレーで奇妙な図形を描き、「色鬼」とあだ名された落書き犯。やがて発見された少女の遺体は、スプレーで全身を塗りたくられていた。第一発見者だった警官から話を聞いた桧山が指摘した「色鬼」のあまりにも意外な正体とは?(「色鬼」)
60年前、嫉妬に狂った女が男とその情婦を斬り殺し、家に火を放つという事件があった。鬼女と呼ばれた犯人は老人の妹だったが、桧山が語った事件の「真相」は老人が考えていたものとはまるで違っていた。(「手つなぎ鬼」)
最終話「ことろことろ」は霧島のサラリーマン時代の事件。編集長に取材を命じられたのは、ありふれた転落事故と思われたが、遺体のそばにはある少年の写真を入れたアルバムが落ちていた。被害者に子供はいないはずだが・・・・・・。
どの事件でも桧山が語るのは「可能性」に過ぎないが、事件の構図が反転した時に、思いもかけなかった人物が実は「鬼」だったことが分かるのである。
エピソードの前半、問題編に当たる部分の描写は伏線だらけといっても過言ではない。前作『深淵の怪物』収録作で見せたテーマと手法を、さらに深化させたような1冊になっており、実に読み応えがある。なんとも将来が楽しみな新鋭作家の登場である。
「小説推理」(双葉社)2022年3月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載
『鬼の話を聞かせてください』の著者・木江恭さんのインタビュー記事は
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