「読者が選ぶビジネス書グランプリ」は、「ビジネス書における有益性を評価できるのは読者である」というコンセプトのもと、一般投票により表彰されるビジネス書の年間アワードです。今年も、エントリーされたビジネス書の中から総合グランプリを決める一般投票が、12月4日(水)にスタートしました。
さらに「読者が選ぶビジネス書グランプリ」の10回目となる今回は、〈特別賞「10年を彩るビジネス書」〉が設けられています。既刊本を対象に、ビジネスパーソンが「この激動の10年で最も支えになった」と考えるビジネス書に投票し、最も得票数が高かった書籍が特別賞「10年を彩るビジネス書」に選出されます。
そこで、「ほんのひきだし」では、「ビジネス書グランプリ」の歴代の総合グランプリに輝いた作品をピックアップし、フライヤーの要約と合わせて3回にわたってご紹介します。今回は、2016~2018年の3作品です。折々に読み返したい名著の数々を、この機会にぜひ手に取ってみてください。
【2016 総合グランプリ】
『イーロン・マスク 未来を創る男』
- イーロン・マスク
- 著者:アシュリー・バンス 斎藤栄一郎
- 発売日:2015年09月
- 発行所:講談社
- 価格:1,870円(税込)
- ISBNコード:9784062196338
『イーロン・マスク 未来を創る男』の要点
1.イーロン・マスクは「火星に人類を送り込み、人類を救う」というミッションを掲げ、スペースX、テスラモーターズ、ソーラーシティを軌道に乗せて、新たな挑戦を続けている。
2.スペースXは、3度の打ち上げ失敗に屈せず、人工衛星や国際宇宙ステーションへの補給物資を安定して宇宙に運べるようになるまで成長を遂げた。
3.テスラモーターズは、100%電気燃料の自動車を開発し、先進性や効率性を追求した「モデルS」によって、自動車業界に激震を与えた。
『イーロン・マスク 未来を創る男』レビュー
現在、全世界から最も注目を浴びている経営者は、イーロン・マスクだと言っても過言ではない。凄まじい頭脳と溢れ出る情熱、使命感を持って、ロケットや電気自動車のイノベーションを実現してきた男、イーロン・マスク公認の伝記が登場した。マスクはどんな半生を駆け抜けてきたのだろうか?
本書では、いじめにあっていた少年時代、祖国、南アフリカからの逃避、駆け出しの経営者時代、ペイパル創業を経てスペースX、テスラモーターズ、ソーラーシティといった企業を軌道に乗せるまでのマスクの悪戦苦闘ぶりが、鮮やかに描き出されている。
「人類の火星移住を実現させる」という壮大な夢に向かって、次々と前代未聞の目標を打ち立て、果敢に挑んでいく姿は圧巻である。例えばマスクは、1基の打ち上げに240億円もかかるロケットを宇宙に飛ばそうとする。粘り強い取り組みの結果、直近の目標である国際宇宙ステーションへの物資補給に成功した。もう一つの挑戦は、電気自動車「ロードスター」の開発である。一時は経営破綻寸前と言われたが、何とか息を吹き返し、快進撃を見せている。マスクは、幾多の失敗にも屈せず、「大風呂敷を広げているだけ」という周囲の非難をものともしない。
読みごたえのある一冊であるが、マスクの人生を深く掘り下げ、その舞台裏を明るみに出す著者の魔術にかかったかのように、本書の世界観に引き込まれ、あっという間に本書を読み終えてしまうだろう。テクノロジーの限界に立ち向かう稀代の経営者の軌跡をぜひ堪能してほしい。
【2017 総合グランプリ】
『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』
- LIFE SHIFT
- 著者:リンダ・グラットン アンドリュー・スコット 池村千秋
- 発売日:2016年11月
- 発行所:東洋経済新報社
- 価格:1,980円(税込)
- ISBNコード:9784492533871
『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』の要点
1.長寿化により、ステージの移行を数多く経験する「マルチステージ」の人生が到来する。人生の選択肢が多様化するため、自分のアイデンティティを主体的に築きながら、人生をどのように計画するかが問われる。
2.今後は、金銭的な有形の資産と、家族や友人関係、知識、健康といった「見えない資産」とのバランスをとることがますます重要となる。「見えない資産」は生産性資産、活力資産、変身資産の3つに大別される。これらに投資を続け、自らを再創造することが実り多い100年ライフには欠かせない。
『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』レビュー
日本でも旋風を巻き起こした『ワーク・シフト』の著者リンダ・グラットンと、経済学の権威アンドリュー・スコットによる待望の新作が登場した。今回のテーマは「100年時代の人生戦略」である。
これからを生きる私たちは、長寿化の進行により、100年以上生きる時代、すなわち100年ライフを過ごすこととなる。新しい人生の節目と転機が出現し、「教育→仕事→引退」という人生から、「マルチステージ」の人生へと様変わりする。それに伴い、引退後の資金問題にとどまらず、スキル、健康、人間関係といった「見えない資産」をどう育んでいくかという問題に直面するというのが著者の見方だ。ロールモデルもほとんど存在しない中で、新しい生き方の実験が活発になることは間違いない。また、生涯を通じて「変身」を続ける覚悟が問われると言ってもよい。
今後どんな時代が訪れ、どんな生き方を模索すればいいのか。その際、どのような有形、無形の資産が重要性を増すのか、どんな人間関係を築いていけばいいのか。企業や政府が取り組むべき課題は何か。本書は、こういったテーマと向き合うための手がかりを、豊富な「人生のケーススタディー」とともに与えてくれる。読み進めるにつれ、「自分は何を大切に生きているのか」「何を人生の土台にしたいのか」と自問せずにはいられないだろう。
これまでの成長至上主義から脱却し、自分らしい人生の道筋を描くための羅針盤として、何度もお読みいただきたい。
【2018 総合グランプリ】
『革命のファンファーレ』
- 革命のファンファーレ
- 著者:西野亮廣
- 発売日:2017年10月
- 発行所:幻冬舎
- 価格:1,528円(税込)
- ISBNコード:9784344031555
『革命のファンファーレ』の要点
1.「貯金」の時代から、信用を貯める「貯信」の時代になると、自分の意思を明確に表明することが重要となる。
2.現代でモノを売るなら、現代人の動きを読み、先回りして、売り方をデザインする必要がある。
3.作品の無料化が進むと実力評価の時代が到来する。
4.これからの広告制作においては、自分の手から離れても、「広告の連鎖」が自然発生する基盤をつくることがカギとなる。
『革命のファンファーレ』レビュー
「読者が選ぶビジネス書グランプリ2018」の総合一位に輝いた『革命のファンファーレ 現代のお金と広告』。まさに「時代に選ばれた」と感じさせられる一冊だ。その理由は、著者の西野亮廣氏がもてはやされているからではない。本書が、彼自身の壮大な実験をもとに、新たな時代にふさわしい「広告戦略」の本質を、的確すぎるほどに射抜いているからだ。
西野氏がネット上で絵本『えんとつ町のプペル』を無料公開したとき、「クリエイターが食いっぱぐれる」という批判が相次いだ。強い危機感が西野氏を襲った。「日本の広告の考え方をアップデートさせなくては」。そんな想いに突き動かされ、本書を書き上げたという。
実力が可視化される現代において、いかに信用を獲得するか。それは、SNS全盛時代において、マーケティングの成否を左右する。本書は、届けたいモノやサービスがある、すべての人に向けた、新たな広告戦略の指南書だ。
ところで、西野氏のメッセージがこれほど読者の心にインパクトを与えるのはなぜか。それは、世間の常識に対して「本当にそうなのか」と冷静に考え抜き、試行錯誤を経て紡ぎ出された言葉だからだろう。自身の成功と失敗の理由を分析し、それを常に行動に活かし続けていることが、読む者の共感を生み、その背中を押すのではないか、と要約者は推察する。それらが結実し、クラウドファンディングにおける個人での国内歴代最高記録樹立、『えんとつ町のプペル』33万部突破という、桁違いの成功を生んだのだろう。
西野氏の手による「常識を転覆させる革命」にぜひ立ち会ってほしい。時代の捉え方、そして明日からの行動が確実に変わるはずだ。
〉第2回(2019~2021)、第3回(2022~2024)はこちら
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