各出版社を代表する雑誌の編集長によるリレー連載「編集長雑記」。
今回は、11月に創刊30年を迎えた月刊声優誌、『声優グランプリ』の編集長・廣島順二さんのご登場です。
2012年から、12年にわたって編集長を務めてきた廣島さん。キャラクターに声を当てるだけでなく、音楽活動やメディアへの露出が増え、活躍の場と人気が広がっている声優たちとともに歩んできた同誌の変遷と、「雑誌」への思いについて綴っていただきました。
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声優グランプリ 2025年1月号
発売日:2024年12月10日
発行所:イマジカインフォス
発売所:主婦の友社
価格:1,580円(税込)
JANコード:4910055870151
「カラーがない雑誌」を貫く“本分”と変わらないもの
『声優グランプリ』(通称:声グラ)は、声の俳優である声優の専門誌だ。1994年に創刊し、2024年11月に創刊30周年を迎えた。
活字媒体なので、声優の一番の魅力である声を伝えられないという大きなハンデを抱えているが、その代わりに濃厚なインタビューと美麗なグラビアで声優の人となり、魅力を届けるというのを売りにしている。また、創刊当時から一貫しているのは、男女両方を掲載すること、声優ファンだけでなく声優を目指す人たちにとっても有益な情報を載せるということだ。
そんなふうに読者のターゲティングがゆるふわなので、女性声優が表紙のときは男性読者が7割になり、男性声優が表紙のときは女性読者が7割になる。固定読者があんまりいない、ちょっと特殊な雑誌かもしれない。
こんな特殊な雑誌が30年も続けてこられたのは、ファンのニーズに合わせ、その中身を自在に変化させてきたからだろう。
1994年の創刊当時の『声グラ』は、情報源としての役割が大きかった。まだネットが普及していなかったため、個々の声優の活動やそのパーソナリティは十分に知られておらず、情報を得られるのはアニメ誌の数ページしかなかったからだ。もちろん『声グラ』には創刊当時からグラビアページはあったが、読み物や情報欄が現在と比べて圧倒的に多かった。90年代後半は、“情報誌期”だった。
2000年代に入ると深夜アニメが激増する。声優が登壇するイベントやライブといった興行と、主題歌CDの販売などがアニメビジネスの中で重要な役割を持つようになった。それに応じて、『声グラ』ではアニメ作品や声優アーティストCDのプロモーション媒体としての役割が大きくなり、新譜のリリースインタビューやイベント・ライブのレポート記事が誌面の多くを占めるようになった。この時代は“音楽誌期”といえる。
2010年代になると、声優とキャラクターが同一視されることが増え、アニメやゲームでアイドルものが隆盛を迎える。それに応じて、『声グラ』では、作品の世界観を誌面で表現した(アイドル)グラビアが増えた。撮り下ろしの声優写真集や雑誌連載をまとめたフォトブックを刊行しはじめたのもこの頃からだ。いわば“アイドル誌期”。
そしてコロナ禍を経た現在、『声グラ』はこれまでの各期の要素をすべて内包しつつ、推し活を楽しむための雑誌になった。言うなれば“推し活誌期”だろうか。
今や声優の情報はネット上にあふれており、YouTubeではいくらでも声優の声と姿が楽しめる。だが、そんな時代にあっても、推しの1枚の写真、1行の文章が心に刺されば、ファンは雑誌を読んでくれる。推しが大きく取り上げられると、応援のために同じ号を何十冊も買ってくれる方もいる。推しへの熱量が今の『声グラ』を支えてくれている。
というわけで、時代に合わせてさまざまに形を変えながら、なんとか続いている『声グラ』。やはり雑誌だけではなかなか厳しいので、声優の書籍や写真集もコンスタントに刊行しているし、イケてるファッション誌のようにイベントや展示会、動画配信なども行い、雑誌ブランドをIPとして捉えて多角的に展開している。正直なところ、雑誌そのものの売上よりも周辺の声優事業の売上のほうが何倍も大きい。
それでも私は、雑誌を諦めへん。
『声優グランプリ』には雑誌としてのカラーがないと言われる。一冊を貫くかっこいいテーマはないし、特集ごとにデザイナーはバラバラ、アートディレクターももちろんいない。表現がベタすぎて野暮ったくなっちゃうこともある。だがそれは、出演する声優、取り上げる作品にひたすら寄り添うことを第一としているから。
極度にパーソナライズされたデジタル社会にあっては、文字どおり“雑”であること、検索ではたどり着けない“偶然の出会い”を提供することこそが、雑誌の本分だと思う。だから、この先、時代がいかに変わろうとも、声優の活動にとことん寄り添う気持ちと柔軟性を持って、生き抜いていきたい。
31年目もどうぞよろしくお願いいたします。
イマジカインフォス 『声優グランプリ』編集長
廣島順二 HIROSHIMA Junji
2006年入社。2011年に声優グランプリ編集部に異動させられ、2012年には勢い余って編集長に。それからずっと編集長。実は取締役でもある。大阪出身。