全国の書店員さんが、もっともおすすめの本を紹介する連載コーナー「わが店のイチオシ本」。
今回は、神奈川県横須賀市にある文教堂横須賀MORE’S店の副店長・井上昭夫さんに、『エアー2.0』の魅力についてご執筆いただきました。
「イノウエしょてん」とは、文教堂横須賀MORE’S店の名物書店員・井上さんが厳選した書籍を紹介文とともに展開するコーナーです。新刊、既刊を問わず、“本当におもしろい本を読んでほしい”という思いから開始され、いまでは同店に欠かせないコーナーとなっています。
- エアー２．０
- 著者：榎本憲男
- 発売日：2016年10月
- 発行所：小学館
- 価格：847円（税込）
- ISBNコード：9784094063455
- エアー３．０
- 著者：榎本憲男
- 発売日：2024年09月
- 発行所：小学館
- 価格：2,530円（税込）
- ISBNコード：9784093867382
『エアー2.0』は、予想外の展開が次から次へとスピーディーに続く近未来経済サスペンス小説で、第18回大藪春彦賞にノミネートされた作品です。続編の『エアー3.0』が9月25日（水）に発売になっており、「イノウエしょてん」でも大々的に展開されています。それでは、『エアー2.0』を井上さんにご紹介いただきます！
究極のフィクションの興奮が味わえる物語
当店は、京浜急行の横須賀中央駅に隣接する横須賀モアーズシティ7階にあります。小・中学生向けのプログラミング教室「HALLO」も併設している、地域に根ざす書店です。
今回、私が紹介する「わが店のイチオシ本」は、榎本憲男さんの『エアー2.0』です。物語は2021年の東京オリンピック開催の少し前から始まります。主人公の中谷祐喜は新国立競技場の工事現場で日雇いとして働いていますが、そこで不思議な老人と出会い、思いもよらない出来事が起こり始めます。老人が現場を辞めていく際に託された馬券が5千万円もの大穴を当てたり、工事現場では爆発事件が発生したりします。
やがて、辞めていった老人が再び姿を現し、中谷は彼から、人工知能「エアー」を日本政府に提供するための交渉人になってほしいという、想像を遥かに超える依頼を受けることになります。
老人が開発した人工知能「エアー」は、極めて精度の高い市場予測システムです。人間の感情までも数値化して入力し、さらに国が持つ極秘なデータをインプットすることによって、「エアー」の出す答えは最早、予測ではなく「お告げ」になるレベルのものでした。そして、得た運用益の15％を中谷と自分の取り分として得ようとしています。
当初、日本政府は非常に懐疑的ではありましたが、中谷から試験的に提供されたデータは驚くべき正確さでマネーを増幅させていき、国の資産は潤いだします。そしてついに、日本政府は「エアー」の提供を受け、運用することを承諾します。そうして動き始めた「エアー」は、国家予算に匹敵するほどの莫大な利益を生み出し続けるのですが……。
とまあ、ここまでが全体の4分の1ほどの概略なのですが、書いている自分が歯がゆいほど説明し切れていないのは、本人の力不足でございます。本書を読み始めたら最後、強靭な物語の推進力によって、未知なる読書体験をしている自分に気づく暇もないほどの、一気読みなどというレベルではない、究極のフィクションの興奮を味わえます。
当店では『エアー2.0』の累計販売冊数が1,100冊に達していて、読まれたお客様からは、「めちゃくちゃおもしろかった！」「今まで読んだことのない小説だった！」「普段は人のすすめる本は読まないが、これはおもしろかった！」「ラストがかっこいい！」など多数のお褒めの言葉を頂戴しております。この機会に、未読の方に自信をもっておすすめしたいと思います。
本書は単行本が2015年9月に刊行されていますが、この9月下旬に、9年振りに続編が刊行されました。さらに壮大にスケールアップした『エアー3.0』も超おすすめです。
◆作り手からのメッセージ◆
『エアー2.0』は単行本刊行から1年後に文庫化されました。それから3年後、文教堂横須賀MORE’S店の井上さんから大量発注があり、そこから重版がかかり、多くの読者のもとに届くことになりました。あらためて書店のバックアップが、作品に命を吹き込むことを実感しました。感謝です。そして5年後、続編の『エアー3.0』が、この9月に世に出ることになりました。
（フリーランス編集者 稲垣伸寿さんより）
文教堂横須賀MORE’S店（Tel. 046-822-2655）
〒238-0007
神奈川県横須賀市若松町2-30
ヨコスカモアーズシティ7F
